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夕方が近づいてきていて、太陽は少しずつ海に傾き始めていた。


私はこの日のために買った水着を着て、上から長めのTシャツを被り、そろそろと砂浜の波打つところへ歩いていった。


男の子たちは遊び疲れたのか、砂浜からは撤退していた。

桐生さんは砂浜まで一緒に来たが、私のことを見守るだけのつもりらしい。途中でどっかりと腰を下ろして胡座をかいてしまった。



途中でサンダルを脱ぎ、裸足になる。


海に入るのなんてもう子供の頃以来で、何年ぶりなのかなんて全く検討もつかなかった。


そろそろと海に向かっていくと、足の指の間を波と砂がサラサラと通って、気持ちいい。
おっかなびっくり膝丈のところまで進むと、少し怖くなって桐生さんの方を振り返った。
何を考えているのかは読めないが、こちらを見守ってくれているようだ。


沖縄に来たんだったら。


思っているよりあったかくはなかった海が、私の体温を奪って、気持ちいい。私は少しずつ少しずつ、波に向かって歩き、そしてプカプカと浮いた。
顔をつけるのには抵抗があったが、目標も決めずにずんずん平泳ぎするのが楽しかった。

不思議なのは、どこまでいっても海の底が目で見えることだった。水がとても綺麗だ。


私は少しの間、頭をからっぽにして沖縄の透き通った海の中を身体で覗き込んでいた。







遠くに行き過ぎるなんて、そんな馬鹿なことはしないが、当初思っていたよりは沖の方へ泳いでしまっていた。

それでも桐生さんが砂浜にいるのは見えるから。


そろそろ戻ろうか。距離を測りたくて砂浜を見ると、先程まで座っていた桐生さんが、立ってこちらを見ていた。

胡座かくの疲れちゃったのかな。



そう思い更に注意して桐生さんを見ようとしたときだった。


桐生さんの表情が、また何かおかしいことに気づく。


ふと、一昨日ご飯を食べているときの桐生さんを思い出した。


こちらを見ているのに、何も見ていない。


普段あんなに優しい顔をするのに、今の桐生さんは何かに絶望したような、嫌悪しているような、今すぐにでも泣いて叫んで海に飛び込んでしまいそうで、でもできない。そんな得体のしれない表情をしていた。


なんだろう。

なんだろう。



――だからお前に……



その後が聞こえなかった。その男の人は、一体何と言ったんだろう。