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気がつくと、私は見知らぬ布団に横になっていた。


木の板の天井が見える。

視界が少しオレンジがかっていて、頭も身体も熱く重かった。


上体を起こそうとして、思っているよりも動かせず「うぅ、」と呻いたとき、不意に障子が開いた。


立っていたのは、桐生さんだった。


「気がついたか。」

桐生さんはそういうと、ペットボトルの水を持ってこちらに向かってきた。

「私……」

「譲が急に沈んで上がってこなくなったから、何事かと思って焦ったんだぞ。」

「え……。」

「少し脱水症状が出てるようだな。飲め。」


そうか。私、溺れたんだ。
そう言われて今度こそ上体を起こそうと身体に力を入れたが、やはりクラクラして起き上がれない。

その瞬間何かが顔へ近づいてきた。

「んっ!」


桐生さんの顔だった。

桐生さんはなんの躊躇いもなくペットボトルの水を口に含み、こちらに移してきたのだ。驚きが大きすぎて何も考えずに一口目を飲み込んでしまった。

彼はさもそれが私のために正しいから、といった様子でその後も繰り返し私に水を口移ししてきた。
私は抵抗する元気もなく、混乱したまましかし冷たい水を体が欲していたのだ、何度もそれを一生懸命受け取った。


じゅる、と、数回私に水を含ませたあと桐生さんが私の唇を舐めて離れていった。


あれ、、あれ、桐生さんって、あれ。


私の頭はただでさえボーッとして回転が鈍っているのに、桐生さんが私の思っていた桐生さんじゃなくて、混乱、いや、そもそも桐生さんってどんな人なんだ。私はまだ何も知らないんじゃないか。

恐る恐る桐生さんを見上げると、彼は今までに見たことのない色の目をしていた。

それは、私が溺れる前に見た虚空を見つめる目でもなく、普段の優しい眼差しでもない。瞳の中に炎が灯ったような厳しくて熱い目だった。







「譲だからだ。」

「え。」

「俺は誰彼構わず優しくする人間じゃない。譲だから話しかけ、連絡先を交換して、家に連れ込んだんだ。」


何を言ってるの。どこ、どこから言ってるの。


「大丈夫だ。」

何が大丈夫なの。桐生さんはそこまで言うと再び顔をこちらに近づけた。水、じゃない。

先程離れたときの様にぺろっと私の唇を舐めると、そのまま私の唇を食べた。
口を開けられ、今度は水分を奪われるようなキスをされる。上顎を何度も舌で擦られ、股の間が疼いて私は自分の太ももを擦り合わせてしまった。

サッと両手首を押さえつけられ、キスの角度を変えながら桐生さんが私の上に覆いかぶさるように体制を変えていった。

まって、まって。

息が苦しい。ボーッとして、にゅるにゅるして、熱い。


んー、んー、と私が酸欠を訴える声だけなんとか上げると、桐生さんはやっと口を離した。

同時に擦り合わせてしまっていた私の太ももの間に自分の膝を入れた。まったくもって何も身動きができない。

真意を伺いたくて見上げた桐生さんは、障子の外からぼんやり透ける月の光に照らされて、私が母性を感じたのは完全に嘘だったと思うほど、ただの雄の顔をしていた。


きっと溺れた私を助けるために海に飛び込んだのだろう、アロハシャツは緑ではなくオレンジ色になっている。オールバックは崩れに崩れ、前髪がサラサラと顔にかかっていた。

私はというと、着ていたTシャツは当然水を吸って脱がされたのだろう、が、水着も着ておらず、着てきたライトブルーのワンピースを、下着もつけないまま申し訳程度に着させられていた。

す、とまた桐生さんの顔が降りてきて、キスを警戒していた私の口元を通り過ぎ、首に口づけた。サラサラと彼の前髪が私の頬を撫でる。

そのまま何回かキスを落とされ、ピリ、とした痛みが走る。

なんだ、何で、これは。
まるで、支配欲じゃないか。


「き、桐生さん。」

彼の右手が私の腰に移り、更に下に下がろうとしたので、半ば悲鳴のように名前を呼ぶしかできなかった。

「譲。」

やっと桐生さんの動きが止まった。
……彼はいつから私の名前を呼んでいたんだ?確かにこの前までは中村と。


「桐生さん、あの、私、」

桐生さんが顔を上げ私の目を覗き込む。

私は、桐生さんが私をどうしたいのか、知りたくなかった。

でもそれ以上に、私が桐生さんをどう思っているか知られたくなかった。
しかし桐生さんは容赦なく私の目を覗いてくる。

私が桐生さんを素敵だなと思って、慕っているなんて気づいてほしくない。

男性の好意に気づかずノコノコと着いていく若い女をこれからも演じていたかった。




フ、と笑うような吐息が聞こえた。




バレた。全部バレた。


混乱の中でもかあーっと顔に熱が集まるのがわかった。私の気持ちが受け取らてしまった。




馬鹿な期待をしながらゆっくりと瞬きをした後、桐生さんを見返そうとして、ゾッとした。


またあの目になっている。絶望を知った上で、何も見えていない目。




「あ、あの、桐生さ、」

私の声は途中で遮られ、桐生さんは私のワンピースを下からたくしあげ、乱暴に勢いよく脱がせた。
その行為に、私は、確かにたったさっき気持ちが繋がったと思ったのに……また一瞬で全てなくなってしまったと感じた。


桐生さんはそのまま私の胸に吸い付き、右手は私の割れ目を探った。

「桐生さん、や、」

情熱というより、機械的な動きで早急に私のいい所を開いていく。

このボタンを押したら次はこのボタン、次はこのレバー。無駄も感情もない正確な動きに、私はさらに混乱した。


何も求められていない。何も求められていないのに、身体が求められている。



しかしとうとう乳首を抓られ彼の指がドロドロに溶けて熱い私の中を擦り上げたとき、そんな混乱も関係ないような甘ったるい声が私の口から漏れた。