レポートがなかなか終わらない。
内容が難しいというのもある。もっと大きな原因は、私が新しい環境での生活にまだ慣れていないことにあった。
知らない内に気を張っているのか、未だに家に帰ると急に全身がだるくなってしまう。最低限の家事を済ませると、課題どころか遊ぶことすらできずに寝てしまうのだ。そのおかげで最近はすごく健康的な生活を送っているけれど、同時に課題の状況は切羽詰まってきていた。
今日も途中からgが何十個もタイプされているレポートの画面を見て、私は決意した。学校で全て終わらせよう。眠ってしまうのはきっと家だからだ。
私は早速、ノートパソコンと資料を抱えて図書館へやってきた。
出入り口が改札のようになっている。学生証をかざすと小さく電子音が鳴って、レバーが開いた。
感激して思わずおお、と言いそうになったけれど、近くに係の人の姿が見えて私は我に返った。
中に入って、まずは机を探す。途中、通りかかった本棚でいくつか使えそうな資料を見つけたので、それをまた腕に抱えた。
一番落ち着けそうな窓際の席が丁度空いていた。外は夕焼けだ。もうすぐ、日が沈む。
誰かに、軽く肩を叩かれた。
目を開ける。
いつの間にやら、瞼が下がっていたみたいだ。全然気が付かなかった。今何時だろう。
周りの景色が、ぼんやりする。腕を下敷きに眠っていたから、目が強く押されて、うまくピントが合わない。
とりあえず、起こしてくれた人にお礼を言いたい。下宿先はこの近くだから終電を逃すということはないけれど、あまりに遅い時間に道を歩くのはやっぱり怖い。今が図書館の閉館時間なら、まだ20時くらいのはず。
隣へ向き直って、頭を下げた。
「起こしてくれてありがとう」
「いや、偶然見つけただけなんで」
返ってきたのは、どこかで聞いたことのある声だった。
顔を上げる。視界が徐々に、元に戻っていく。黒髪が見えた。その下あたりで、きらりと光が反射する。
ああ、少し前隣に座らせてもらった、すごくお洒落な男の子だ。
「なんだか助けられてばっかりだね。この前はレポートありがとう」
「レポート?」
男の子は首を傾げた。
確かに、私にとっては強烈な出来事だったけれど、向こうにとっては些細な出来事だったかもしれない。
「一枚机に置き忘れてたのを渡してくれたの。提出日も近かったしすごくありがたかった」
「あー、それはどうも」
男の子は、ちょっと目を逸らした。
それから、彼は「俺、帰るんで」と言う。私はありがとう、と頷いた。
男の子は去り際に小さく頭を下げてくれた。礼儀までしっかりした人みたいだ。芸術学部かな。奇抜なのに不思議と自然に見える服の配色をしていた。
机の上に広げていたノートや消しゴムを片付け始める。やっぱり20時は過ぎていた。なるべく早く片付けてしまわないと、図書館の管理人さんに迷惑がかかってしまう。
資料の本を揃えて、手に取った。あまり進んでいない課題を思って、結局場所は関係ないみたいだなと少し落ち込んだ。
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2013.05.05
加筆2019.01.06
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