04▼ぼくの謎めいたミルク

「他の人、サボっちゃったの?」
埃っぽい箒を手に取る。
それを片手に近づくと、沢田くんは目を丸くした。
「え……ええっ?! 宮内さん?!?!」
夕暮れに染まる教室の中、沢田くんはぽつんと一人で立っていた。彼に近づいて、にっこり笑う。世間ではこの顔が、友好を示すらしい。
「わたし、てつだうよ」
わたしはそれに、正反対を滲ませる。

彼女はどこか、ただの人間が触れてはならないような雰囲気を纏っている。
シャワーの蛇口を捻りながら、綱吉は思った。
服を着て、生まれつき色が茶がかっている髪を、タオルで乱暴に拭う。
(いやいやいや、そんなはずはないんだけどさ)
夕方、またクラスメイトに押し付けられた掃除を手伝ってくれた彼女を、思い出す。
その容姿は、人間離れしていた。夕日に包まれた姿は、天から舞い降りてきたと言われても信じてしまいそうなほど美しかった。己と同じ血が通っているのかと、確かに少し疑った。
しかし彼女は人間だ。クラスメイトで、授業だって共に受けている。
「それがなんだよ、人間が触れちゃいけないって……」
彼女とそれほど親しくない自分が触れてはいけないと感じるならば普通だろうが、綱吉は確かに、人間が触れてはならぬ存在だと、一瞬感じてしまったのだ。
自分の不可解な感覚に、思わずぼそりと呟いた綱吉の後頭部へ、鈍い衝撃が走った。
「いっだあああ!!」
「これくらいのことで叫ぶんじゃねえ、ツナ」
リボーンだった。スマートに黒スーツを着こなしたリボーンは、洗濯機の端にバランス感覚良く立っていた。
蹴りをくらった頭を摩りながら、綱吉はむっとした。
「いきなり何すんだよ!」
「今日、お前の掃除を手伝ってくれた奴が居ただろ」
リボーンは綱吉に構わず口を開いた。
「おい!!」
「名前は確か、宮内美月」
「あーもう……そうだよ、宮内さんだけど……」
ため息混じりにそう言って、彼ははっとした。
頭の上からタオルを取り払い、遮るものが無くなった視界でリボーンを睨む。
「……まさかお前、宮内さんまで巻き込むつもりじゃないだろうな!」
リボーンはにやりと笑った。
綱吉の顔から、さっと血の気が引く。
しかし、小さな家庭教師の口から出た言葉は、彼の予想していたものと違った。
「宮内美月をファミリーに入れるつもりはないぞ」
「は……なんだ、それなら」
「ただ、向こうから入ってくるかもな。あと……」
リボーンは、つぶらな瞳を綱吉に向けた。
大きくて真っ黒な双眸は、相変わらず全く彼の考えることを表さない。
「ツナ、ひょっとしたらお前、殺されるかもしれないぞ」
「はいー?!?!」
綱吉の声が、家中に響き渡った。



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