その壺の中は、質量を持たない空間となっており、今日決闘クラブに集まった生徒全員の名前が記されてた羊皮紙が収められている。
室内の生徒全ての目が注視する中で、魔法の壺は二枚の羊皮紙を吐き出した。竜崎の手が、羽ばたいて逃げようとするそれを捕まえる。
「グリフィンドール、手塚国光」
二枚目の羊皮紙を見やった竜崎が、僅かに目を見開いた。
「そして……スリザリン、跡部景吾」
一瞬の静寂の後、室内で爆発が起こったかのようだった。
グリフィンドールの寮監である竜崎教師の一声で、決闘クラブの熱気は最盛を迎えた。
赤い絨毯の敷き詰められた壇上に、二人の生徒が上っていく。一人は凛とした面持ちで、もう一人は悠々とした立ち居振る舞いで、両者は対峙した。
彼らのファンでなくとも、その光景には誰もが鳥肌を立てざるを得なかった。自他共に認める、歴代でも類を見ない才の持ち主の二人が、公の場で決闘を行うのだ。
千絢も、少なからず興奮していた。斜め前で、跡部のファンらしき女生徒が号泣している。どこかから、グリフィンドールの菊丸が手塚の名前を叫ぶ大声が聞こえてきた。
「あれ、仕組まれたやろ絶対」
不意に、隣から低く声が聞こえて、千絢は跳び上がった。激しく脈打つ心臓を落ち着かせるよう、胸の前で手を組んで隣を見る。
感情の起伏があまり表に出ない漆黒の瞳は、手塚と跡部が対峙する壇上を見ていた。耳元で、ピアスが部屋に差し込む陽光を反射して煌めく。黒いローブの下から、レイブンクローのシンボルカラーである青と銅のストライプ柄のネクタイが ちらりと見えた。
千絢はくすりと笑った。
「そうかも。でも、もしかしたら本当に偶然かもしれないよ」
千絢がそう言い終わった瞬間に、壇上から爆発音がした。手塚、跡部の両者が放った呪文がぶつかったようだ。部屋の至る所から歓声が沸いた。
跡部が杖を構え直した。手塚が腕を伸ばす。
その様子を、平静な様子で財前は見据えていた。
「わからんで。あの人らの決闘見たくない教師なんて居らんやろ」
「んー、それもそうだね」
千絢は彼女も、財前から壇上へと視線を移した。
手塚の放ったステュービファイの呪文を、跡部が防衛呪文で無効化した。間を置かず、跡部は自信に溢れる声で「サーペンソーティア!」と呪文を唱える。美しくしなった跡部の杖から、美しい白銀の蛇が体をくねらせて手塚へと迫る。手塚は眉一つ動かさずに、「ペトリフィカス・トタルス」と杖を蛇に向けた。一分の無駄もない動きだった。
蛇は一瞬にして石化した。跡部は片眉を持ち上げた。アイスブルーの瞳が、手塚を見る。氷のような静寂が満ちる。彼らにしかわからない読み合いがそこにあった。
と、魔法の壺が、二枚羊皮紙を吐き出した。固唾を飲んで決闘を見守っていた竜崎が、慌てて目の前を横切った紙を掴む。
「そこまで!」
杖を向け合い、構えていた手塚と跡部は、一度互いに睨み合ってから杖を下した。
「お前ら、この続きはお楽しみに取っといてやるぜ」
跡部は観衆に向けそう言って踵を返す。黒いローブが翻った瞬間に、スリザリン生の跡部コールが部屋を包んだ。
「このコール、一年生の頃からあったんだって」
「どんだけ目立ちたがりやねん」
千絢が言うと、財前は不可解だとばかりに眉をしかめた。
手塚は、彼もローブの裾を翻して壇上から降りた。グリフィンドール生が、負けじと手塚の健闘を褒め称える。
「竜崎先生! 次俺! 俺っスよね!!」
千絢や財前と同学年の切原が息巻いた。彼は未だ壇上に上がっていない。先ほどから素晴らしい決闘の数々を見学するばかりで、痺れを切らしたようだった。
その隣で、桃城が彼に噛みついた。
「何言ってんだよ! 俺だよ俺!!」
「はあ? なーに言ってんの! 柳先輩と乾さん、跡部さんと手塚さんときたら次は俺っしょ!」
「ええい! お前たち、あまりにもうるさいと追い出すよ!!」
竜崎が二人に向けて叫ぶと、彼らは不満たらたらの顔で押し黙った。
一つ咳払いをして、竜崎は手元の紙に目を落とす。
「次! ハッフルパフ、三藤千絢!」
「へ?」
千絢は状況を飲み込めず、目を瞬いた
隣 - 魔法パロ