「おおっ! 次の決闘は千絢ちゃんかー!」
そう叫んで瞳を輝かせたのは、ハッフルパフ六年生の千石だ。驚異の動体視力を活かし、彼はハッフルパフ寮のクィディッチチームでシーカーを務めている。
隣で千絢ちゃーん、と彼女に向けて叫ぶ千石に、同じくハッフルパフの南はため息を吐いた。
「そんなに叫んだら三藤に迷惑だろ……」
「いーや! 誰だって応援されたら嬉しいって!」
「そうそう」
千石の隣で、丸井が頷いた。彼の首元からは、赤と金のネクタイが覗いている。同じ寮ではないものの、丸井と千絢はとても仲が良い。クィディッチ杯の全盛期には、宴で使うお菓子を貰ったり作ったりするために、二人がこっそり厨房に忍び込む姿も見られる。
丸井は、じとりと薄紫の瞳を南へ向けた。
「つーかお前、千絢の決闘楽しみじゃねえの?」
南は慌てて首を横に振る。
「そういうわけじゃない。三藤は同じハッフルパフの監督生だし……」
彼はそう言って、竜崎に目をやった。
竜崎は、隣の財前に小突かれ、ようやっと千絢が状況を理解したのを見て、手元の羊皮紙に目を落とした。
彼女の笑みが、にやりと濃くなった。
「相手はレイブンクロー、財前光だ」
部屋がどよめきに満ち溢れた。
丸井と千石、そして南は顔を見合わせる。
「この二人も絶対仕組まれただろ……」
「あははー、まあさっきの試合もなかなかだったけどねえ」
「けどあの壺、外部からの魔法は効かねえって話だぜ」
「じゃあものすっごーく空気が読める壺なんじゃない?」
財前は、レイブンクローの監督生だ。
監督生は一つの寮に男女各一名と決められており、本来は五年生で任命されてからはその後三年間同じ人物が務める。しかしレイブンクロー寮にて昨年までその役を務めていた柳が、今年は辞退したため、財前が指名されたのだ。
千絢と財前は、それぞれ所属する寮の監督生であり、また闇の魔術に対する防衛術、呪文学等、実践系の授業で優秀な成績を収めている。財前に至っては他の教科での評価も高く、レイブンクローの首席だ。
加えて彼らは、寮が違うにも関わらず、非常に仲が良い。よく二人で居るところを目撃されている。
壇へ上る階段の両端に、二人が姿を現した。
少々面倒そうに階段を上っていく財前のローブの裾が翻る。決闘が行われる壇の近くに陣取っている女生徒が、歓声を上げた。それを見て財前を羨ましがる千石に、南と丸井は苦笑する。
女生徒やレイブンクロー生などの歓声に混ざって、「財前ずりーぞ! 俺が決闘する!」「だーから次は俺だって!!」という一部のグリフィンドール生の叫び声が聞こえる。「あんたらうるさいっすわ」と一蹴した財前と、「なにー?!」と声を揃えた二人に、最前列の方から笑いが上がった。
少し遅れて、壇上に千絢の姿が見えてきた。
周囲から歓声が上がる。特にハッフルパフ生は、自身と同じ寮の生徒だということで、熱心に声を上げていた。
「千絢負けんなよー!」
丸 井が叫ぶと、千絢が彼の方を見た。彼女ははにかんで小さく会釈する。丸井の斜め後ろの男子生徒が「可愛い……」と声を漏らした。丸井は彼を睨みつけた。男子生徒は慌てて口を噤む。千石が笑った。
「丸井くん過保護だなあ!」
「別にいいだろぃ」
竜崎が、決闘準備の声を上げた。丸井と千石は、壇上へ目を戻す。
千絢が、杖を構えた。茶色の瞳が、財前を真っ直ぐに見据えている。
財前は横へ流していた視線を、千絢へと向けた。ローブが波打つ。彼はオリバンダーに攻撃呪文に最適だと言われた杖を、 真っ直ぐ千絢に向けた。
竜崎が、決闘開始の声を上げた。
先に動いたのは千絢だった。
「エクスペリアームス、武器よ去れ!」
栗の木で作られた杖の先端から、閃光が飛び出す。
財前は自身に向かう閃光に、正確に杖先を向けた。
「エバネスコ、消えよ」
閃光が一瞬にして、蝋燭の炎が消えるように掻き消えた。
これには、教師である竜崎ですら舌を巻いた。千石が口笛を吹いた。
「いやー、凄いね財前くん! 普通呪文そのものを狙ってエバネスコなんて使えないよ」
「五年生じゃまともに当たらねえしな、普通は」
「三藤も良い詠唱だったんだけどなあ……」
南は千絢に目をやった。
千絢は落ち着いていた。もともと、財前がエクスペリアームスを防いでくることは読んでいたようだ。
彼女は油断なく杖を構えて、冷静に財前の出方をうかがっている。
財前は杖を真っ直ぐ千絢へと伸ばした。
「リクタスセンプラ」
笑い続けよ、の呪文だ。千絢は瞬時に「プロテゴ!」と唱える。透明な盾のようなものに弾かれ、呪文が霧散した。
しかし盾が消えた瞬間に、彼女の両足に包帯が巻きついた。千絢の瞳が丸く見開かれた。
リクタスセンプラの呪文に続いて、財前は千絢がプロテゴと叫んだ瞬間に、「フェルーラ、巻け」の呪文を唱えていたのだ。
体勢を崩しかけた千絢は、自らの足元に向けて「ウィンガーディアム・レビオーサ」と唱えた。
包帯がふわりと宙に浮かぶ。千絢は踏鞴を踏んだものの、その場に倒れ込まずに済んだ。
しかし、慌てて杖を構え直した千絢のすぐ前に、財前が迫っていた。千絢の脳裏が一瞬真っ白になる。
財前は千絢の鼻先に杖を突き付け、口を開いた。
「オーキデウス、花よ」
彼の杖の先から、色とりどりの美しい花が溢れ出た。
明らかに勝敗が決まった上で呪文を唱えた財前を、止めに入ろうと動いていた竜崎が、その場で目を点にした。
千絢は、呆然と目を瞬いた。
財前は、彼女の額を指で弾いて踵を返した。ローブを翻して、彼はさっさと壇上から下りていく。
「ざ、財前光の勝ち!」
竜崎の張り上げた声は、女生徒の黄色い声で掻き消えた。
「財前くんかっこいいー!!!」
「なにあれ! なにあれなに最後の!!」
「千絢ちゃんいいなあー!!」
色めき立つ女生徒たちを見やって、白石は苦笑した。
「公衆の面前で……光にしては珍しく派手なことしたなあ」
その隣にいつの間にか並んでいた財前は、彼とは逆の方向へ視線を流した。
「ただ杖突き付けて終わるんでは、五年生として芸が無いんで」
白石の反対隣から、素早くツッコミが入る。
「嘘付け、最初の声聞こえてたんやろ」
白石の影から顔を覗かせにやにやしている謙也に、財前は冷たく言った。
「うざいっすわ先輩」
「はー?!」
隣 - 魔法パロ