XX
ずっと気になっていた。ずっと諦めたような目をしているから。見ていて痛々しいくらい悲しい眼差しで、それなのに口元はずっと笑っているから。笑うことでずっと、何かにしがみついているように見えたから。目の前で、鹿乃さんはやっぱり笑っている。その綺麗な森の色をした瞳からぼろぼろ涙を零しながら、それでも笑っている。
体力測定のときに言っていた。「ここでだめなら、それが私の運命なんだと思う」
潔い一言に聞こえた。後ろ向きな人なのかなとも思った。けれどその目を見たとき直感的にそうじゃないと思った。それだけじゃないような気がした。でも、それじゃあ何なのか、わからなかった。
演習試験のとき、動きがぎこちなかった。やる気が無いように見えた。それも今ならわかる。ヴィラン役だったからだ。本当にヴィラン役になりきってしまったら、きっと戻ってこれないと彼女はそう悟ったんだ。
後から麗日さんや飯田くんから聞いた。体育祭、僕の試合の途中で席を立ってしまったと聞いた。そのときにちらっと、その目から大粒の涙が溢れているのを見たと少し後ろめたそうに言っていた。きっと伝えるか迷ったんだと思う。その上で彼らが僕に伝えたのは、きっと彼らもその涙に思うところがあったからだ。
「私はヒーローになれない」
鹿乃さんの声は涙に震えているのに、とても澄んでいる。本当にそう確信していることを、なによりその声が僕たちに伝える。
「私は贋物にしかなれない。誰かを守りたいと思ったとき、ずっと付き纏う。私は私を守るためにこの力を使えるようになってしまったんだってこと。そんなの贋物だ。そんなのヒーローじゃない。私はもう一生ヒーローにはなれない。なっちゃいけない。贋物が増えちゃう」
ふっと震える息が零れて、口角が揺らいだ。下がっていくのを必死に持ち上げようとして、唇は歪な形で震えている。
「でも……それでも……」
その眉が耐えられないとばかりに歪んだ。
見ていられないと、きっと誰もが思った。けど、誰も目を逸らさなかった。逸らせなかった。
「ヒーローになりたい……! 捨てられないよ! どうして捨てられないの!」
鹿乃さんはもう笑っていなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、幼子みたいに泣いていた。
「私一人が夢を諦めれば、贋物は一人減るんだよ! 世界のためになれるんだよ! 周りを守る存在として成し遂げられるたった一つのことなのに! こんな私が! それが私の夢なのに!!」
鹿乃さんは血を吐くように言った。涙がぼろぼろ零れた。
「どうして!! どうして最後までヒーローに成り切れないんだろう!!」
