原作10巻(82話-1)
外から轟音が聞こえた。ややあって、複数の足音が施設に駆け込む。音や声からして、恐らくA組の面々だ。救護部屋に身を潜めていた鹿乃は静かに扉を開いた。廊下を足音が遠ざかっていく。相澤は戻ってこない。
合流した方がいい。一人で会敵してはだめだ。補習部屋まで伸びる廊下に戻る。
耳が意識の外で動いた。
振り返る。
「おや」
扉からぬっと現れた影は、鹿乃を見た。静かに首が傾けられる。
「見当たらねえと思ったら、こんなところにいたのか」
左手に青が見える。鮮やかで美しいのに、生気のない青。
「参ったなァ。2つ目の標的は苦労しそうだ」
鹿乃は大きく斜め後方に跳んだ。頬の横を高熱が走る。背は向けられない。補習部屋へは向かえない。まずは脚。唇を噛んで拭う。血が滲んでいる。爪で素早く右手の甲を引っ掻く。
屈んで角を倒した瞬間に、その上を蒼い炎が走っていく。入り口へはヴィランの横をすり抜けねば辿り着けない。左腕が使い物にならない。鹿になったところで機動力は望めない。不可能だ。
継ぎ接ぎの肌の青年が小さく笑う。右手でコートの襟を押さえて何事か呟いている。もう一方の手のひらに青が灯る。
ここから先へ通すわけにはいかない。通したくない。
鹿乃は右手でぐっと角を持った。
補習部屋には行かせない。
(押し返す!)
折った角を構えて駆け出した鹿乃に、ヴィランはニィと爛れた皮膚を吊り上げた。
