原作10巻(83話)

敵が去った15分後、救急や消防が到着した。
生徒41名の内敵のガスによって意識不明の重体15名。重・軽傷者11名。無傷で済んだのは13名だった。
そして、行方不明2名。

「だから来ているのはその3人を除いた……」
「……15人だよ」
十五人。
……十五人。
轟くんの声が聞こえる。
「爆豪と鹿乃、いねえからな」
「え……」
「そうか……緑谷くん、知らないのか」
芦戸さんが涙ぐんでいる。飯田くんは苦々しい声で、とても残酷な事実を僕に伝えた。
「ヴィラン側に奪われたのは……爆豪くんだけじゃないんだ」

「私、痛み止め借りてきます」
そう言ったときの鹿乃の目がどんなに綺麗でも、その言葉がどんなに嬉しくても、あのとき、止めていればよかった。
出て行って、マンダレイから通信があったとき、すぐに連れ戻しに行けばよかった。
ブラド先生の制止なんて聞かないで、飛び出していけばよかった!
「敵は俺らを殺害対象と言い爆豪と鹿乃は殺さず攫った。生かされるだろうが殺されないとも言い切れねえ」
轟が淡々とした口調で言った内容をなぞって、ぞっとする。
鹿乃が死んじゃうかもしれない。
血まみれの左腕。ぐんぐん遠くなっていく背中。
「三奈ちゃん」
傷痕の痛々しい腕の向こうで、私を見て笑った。「ありがとう、左腕」
「……わたしだって」
”なんっっも出来なかった!! しなかった!!”
”まだ手は届くんだよ!”
目が熱い。かっこ悪い。でもだめだった。抑えるなんて無理だった。
「私だって救けに行きたいよ!!」
麗日がびっくりした顔でこっち見てる。切島も轟も、緑谷もだ。
「でもできないじゃん! 救けに行くんだよ?! ヴィランから!!」
涙で声がつっかえる。喉も頬も目も、全部熱い。
「もし私たちまで捕まったら? ううん、危険な目に遭わせたって思っちゃったら?!」
目元をめちゃくちゃに拭う。必死に泣かないようにするけど、無理だ。この言葉だけで悲しくて悲しくて、死んじゃいそうだった。
「鹿乃、また死んじゃうかもしれないじゃん!!」
きっとみんなの頭の中に浮かんだのは同じ場面だ。

「……待て、落ち着け」
障子の言葉でぐっと口をつぐむ。
「”何も出来なかった”悔しさも、”眼前で奪われた”悔しさもわかる」
障子が冷静に話してくれてるおかげで、少し落ち着いてくる。
鹿乃。言葉にはしてくれないけど、見てたらわかる。私たちのこと何でかちょっと眩しそうな感じで見てるなあって思ったとき、一緒にお昼食べてるとき。死だけに向かって走っていくとき見せたあの笑顔も、本当に本当に怖かったけど、でも伝わってこないわけがなかった。
あんなにA組を大切に思ってる。
鹿乃は、凄く難しいものを抱えてる。そんな子が、自分のせいで大切に思う存在が危ない目に遭ったって考えたら?
澄んだ目がこちらを見る。背を向けて、見えなくなる。
今はもう、どんなことでも悪い方向に考えてしまう。
結局最後はみんな黙り込んで、緑谷の診察時間だからって部屋を出た。