あの暇人の暇つぶしは他にもあったのか、時たまパタリと来訪をしなくなる時があった。

憎たらしいあの顔を見ずに済む日は本当に快適で、仕事や調べ事が捗るのなんの。アイツは害しか無い。クソッタレに構われた日は苛立ちで全て持っていかれる。

なので、このまま二度と来るなと心で念じてもまた気紛れにフラフラと邪魔をしに来るのだ。不定期で来られるのが一番心に影響を及ぼすというのを自覚しての行動なのだろうか。それなら余計性格の悪い。いや、アイツの事だきっと違いない。

とっとと帝や大臣の元に嫁いで消えて欲しい。
姫への求婚話はとっくの昔に耳に入っている。そして難癖をつけ退けているという事も知っている。

…アイツも、上っ面だけしか見ない奴らが嫌いなのだろうか。

3 火鼠の皮衣

「ハオさま、あのひと、すき?」
「……は?」
「あのひととあってから、ハオさま、あのひとのことばっかりかんがえてる!オパチョ、さみしい!!」

また例の気紛れだろうか、今日はアイツはここには来なかった。
平穏な日々がここまで素晴らしく快適な物かとしみじみ感じさせる1日で、皮肉にもアイツに感謝した。
こうして静かな、穏やかな気持ちというのは尊いものだと知ら占めされるのは少々シャクだが、まぁいい。

ぼーっと夜空を眺め、考え事をしているとオパチョが不機嫌そうに僕の膝に座り寂しさを訴えてきた。

「ごめんね、多分久しく会っていなかった害虫がまたしてもちょっかいを出してきたもんだから、嫌な気持ちで一杯だったんだよ」
「…?ハオさま、きらいなの?」
「うん。そうだよ」
「きらいなのに、ハオさま、さみしそうにしてる」
「…………えっ」

寂しそう?この僕が?
オパチョはまだまだ子供だから、ものの例えがまだまだ未成熟なのかな。
あんな奴に対して寂しさなんて感じる事はある訳ない。
きっと言葉のあやなんだろう。きっとそうだ。

「オパチョ、まだまだことば、とくいじゃないよ。けどこれはちゃんとあらわせる!」
「……勘違いだよ。僕はあの女の事が嫌いなのに、何故か考えるんだ」
「へぇ、中々面白い事をおっしゃるのね」
「…………君はゴキブリか何か?」

噂をすれば出てくる害虫のように、ひょこりと真後ろから声を掛けられた。
聞きなれた少女の声。あぁ、もうこんな時間だから来ないもんだと思っていた。

「……きらいなのに、うれしいなんて、ヘン」
「オパチョ。大きな誤解を生みかねないからあまり変な事を言わないでおくれ。寂しいと思うけど、後でいっぱい遊んでやるからザンチンの方に行っておいで」
「あら、つまらないわ。あの子、面白そうだからお話したかったのに」
「残念だったね。今日は夜も遅いからさっさと帰りなよ」
「もう、顔を合わせればいつも帰れって言うわよね。悲しいわ」
「そう言われるような事をしてるからだろ」

全然悲しくない癖に。
しかしさっきのオパチョの言葉が少し引っかかる。
なぜこんな嫌悪を示しているのに嬉しいと解釈したのだろう。
…読心は心の声が直接届く術だ。僕は今、最高に殺したい程この女が嫌いだと言うのに、なぜそう捉えたのか。

「まーたその顔。最近変よ、アナタ」
「自分は名前で呼べというくせに、お前は名前で呼ばないんだね」
「あら?名前で呼んでほしいの…?ほほほ。なら何度でも呼んであげる。葉王。これで満足?」
「…………お前がそう呼んだの、何気に初めてだ」
「えぇっ、そうだったかしら」
「さては君、記憶があまり引き継げてないのか?」

そう指摘すると、いつもの胡散臭い笑顔が若干渋くなる。うん。図星か。

「思いだしたわよ。そんなこともあったわね。ほほほ」
「絶対嘘だろ。動揺しているように思えるけど」
「…だって、あなたとの思い出、忘れたくないのに覚えてないとなると悲しいじゃない」

……何を言ってるんだ。コイツは。
その一言で瞬時に鳥肌が立つ。なんで悲しむ必要があるんだ。
思考回路がまるで分からない。なんだ、知己と会うのはそれ程までに嬉しいのか。だとしてもそんな煽るような事、するはずが無いだろ。
……成程。きっとこいつ、なにか企んでるな。
だからそうやって、僕の気持を変に揺さぶろうとしてる理由か。

「そう言って動揺させようとしても無駄だよ。僕には通じない」
「違うわ。ただ、貴方があの時と変わらずこの世界で巡り会えたのが嬉しかっただけよ」
「……気持ち悪い」

なんだなんだ。なんかおかしい。
なーにが嬉しかっただ。いいオモチャを見つけて嬉しかったとでも言うのか。

「記憶を持ちながら二度と会えぬ人間を見るのは寂しかった。そんな時、ずうっと変わらない、姿は小さくなっても自分を知ってる人間がいたら、嬉しいのだわ」

……何か変なものでも食ったのだろうか。
今日のこいつはどこか可笑しい。
警戒しつつ何を企んで居るのだろうと考えていると、何を思ったのか、突如僕の手を握り立ち上がった。

「ご存知?今日は満月なの。こんな青空ハウスにいたってつまらないわ。お散歩でもしない?」
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