セイラルの唄
組み分けの儀式


「名字名前、前へ。」
ホグワーツ入学初日恒例の組み分けの儀式は粛々と進んだ。次に名を呼ばれたその少女は指示の通り登壇し、深く被ったローブのフードをするりと下ろした。するとそのサファイアグレーの瞳がシャンデリアの灯りを映して煌めき、シルバーブロンドの髪が魔法の天井の星空の下で静かに揺れた。顕になったその姿に空気が揺れ、大広間の長机に座る多くの在校生が息を呑んだ。どうしたって目を引いてしまう彼女の容姿は母親譲りのものだった。組み分け帽子は名字名前をスリザリンに組み分けた。





本日よりホグワーツ魔法魔術学校での生活が始まる。ホグワーツは全寮制だ。たくさんの荷物を揃え、組み分けの儀式に間に合うべく名前は時間を見て家を出た。街に出るのは久しぶりだった。細身の体で大きな荷物と大きな鳥籠を抱えて歩く姿は街に馴染まずどこか浮いていた。駅のホームで、汽車の中で、湖を渡る船の上で名前は付き纏うような視線を感じていた。そうだった。外とはこんな感じだった。名前は黒いローブのフードを深く被った。

学校に到着し、新入生はこちらに、と黒い装いの大人が招集をかけた。偏屈そうな中年男性。鋭い目つきがどこか不気味な彼はグリムソン教授と名乗り、これから行われる組み分けの儀式について説明した。
新しく始まる新学期に浮足立つ生徒たちは私語が絶えない。ここへ来るまでに随分疲れ切ってしまった名前はフードに隠れ下を向いていた。

「これから大広間に入場し一人ずつ名前を呼ぶので壇上に上がり組み分け帽子を被りなさい。…そこの君。フードは外しなさい、邪魔になる。」

そこの君、とは明らかに自分に向けられていたことを名前は自覚していた。わかってるよ、あとでちゃんと外すからそっとしといてくれないか。無言のまま軽く頷くと後ろにいた大変張り切った様子の男子が大きな声を出した。

「おい!お前だよ!」

男子は肩を掴み顔を覗き込んできた。

「外せと先生がおっしゃっているだろう!」
「乱暴だな。離してくれないか。」

名前は平坦に伝え視線を逸らした。すると男子生徒はひくりと黙り込み、そして小さく悲鳴を漏らして最後列へと逃げていった。足を踏まれた女子生徒が不満を漏らすと、彼はヒステリックに声を上げた。

「あいつが悪いんだ!俺じゃない、あの目だ!頭がおかしくなりそうだ!!嘘だと思うならお前らも見てみろ!!」

只事ではないその様子にざわめきが広がり、新入生たちは男子の指さす方に首を伸ばした。先頭に立つ教授は咳払いをひとつし、名前を一瞥した。そしてほう、と感心したように息をつき身を乗り出した。

「君のそれは“魅了”だね。」

教授は目の色を変え続けた。

「他者を誘惑し意のままに操り支配する力、それが“魅了”だ。違うかい?後学のために教えてくれ。君は一体何の血を引いているのかな。」

その言葉に生徒たちは耳を疑い、場が静まり返った。名前もその静寂の中、無言を貫いた。無視をしたのではない。必死に口を引き結び冷静を装ったのだ。生徒たちの怪訝そうな視線が刺さる。ああ、やっぱり外はだめだ。あのままずっと家にいればよかったんだ。

「魅了だって?」「人間じゃないってこと?」声を潜め憶測を飛び交わす群衆の中、顔を上げられずにいたその時だった。

「どうでもいいけど、早く始めてくれない?組み分け。」

凛、と声が響いた。

透き通る、少年の声だった。
丁度、大広間の観音扉が開いた。中の準備が整ったのだろう、内側から人が合図を出した。教授はハッと表情を引き締めた。

「失礼、私の好奇心が先走ってしまったようだ。──さあ案内しよう新入生諸君。ようこそホグワーツへ。」

微かにひりつく空気のなか生徒たちは歩き出した。どうでもいい。そう、どうでもいいことなのだ。ただ心が締め付けられたのは、どうでもいいと言い切ったその言葉が嬉しかったからだ。ぞろぞろと列は進んでいく。時は遅く、声の彼が一体どんな男の子だったのかもう分からなくなってしまった。



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