ディア・プランビー
1.最愛


今日、私は青春学園高等部を卒業する。

友人と写真を撮影するなどして最後の制服姿を惜しむ。通常であれば中高大と十年青学なのだけれど私は青学の大学には進まない。もう決めたことだ。

中学ではテニス部のマネージャーを務めたが、高校では部活には入らなかった。そうでありながら卒業式に駆けつけたテニス部OBの先輩たちが私にもおめでとうと声をかけてくれる。テニスからは一旦離れた私のこともこうして気にかけてくれるのだから頭が上がらない。

「それにしても薄情だよな。」
「?どうしたの桃。」
「越前のやつ。俺たちはともかく名前が卒業するってのに来ねえのな。」

卒業証書で肩を叩きながら桃が口を尖らせた。

越前リョーマ。一つ年下の、私の恋人。
リョーマは中等部卒業を最後に学業を全て手放し、最愛のテニスに向き合う道を選んだ。だから今日の卒業式にも在校生の中にリョーマの姿はない。今日も海外を飛び回る。リョーマは世界のどこかで、好きな場所で、好きなテニスをしている。

風が吹く。桜の花が揺れて、離れたところから大きなどよめきが聞こえる。先に振り向いた桃が、頭をかいて私を小突いた。

「…やっぱりあいつらしいな。ったく主役を食いやがって。」

遠くから一人、歩いてきて
光が差すように道ができた。
歓声と、視線と、ああ。本当にね。あなたらしいね。

「卒業おめでとう、名前。ついでに先輩たちも。」









リョーマは賑わう人混みから手を引いて私を連れ出した。あれ、また背が大きくなった気がする。少し歩いてこちらを振り返るとリョーマは「久しぶり」と言って笑った。

「びっくりした…もうすぐマイアミオープンでしょ。今日はこっちで何かあるの?」
「何って、名前の卒業式だから来たんじゃん。それよりこれ。」

リョーマはポケットから薄い長方形の箱を取り出した。洗練されたデザインのリボンが掛かっていて、有名なブランドのロゴが印字されている。

「これ、…どうしたの?」

固まるこちらをよそに、手を取って私にそれを握らせると、リョーマは優しく目を細めた。

「じゃあ、これで。俺行くから。」
「え、もう?」
「またね。」

リョーマは軽くハグをして私の髪を撫でると、嵐のように去って行った。









リョーマは各国を飛び回り、大会に合わせて拠点を転々としている。この時期はアメリカにいるはずで、そうか、本当にこのためだけに来てくれたんだ。もう少し話したかった、だって久しぶりに会えたから。でもそんなところが本当にリョーマらしい。


リョーマの姿が見えなくなった頃に包み紙を開くとそこにはシンプルな、それでいてとても綺麗な、シルバーのネックレスが入っていた。





≪前 | 次≫
←main