Chapter7 〜奇蹟〜





用意された尸魂界では珍しい洋食達が、あっという間に巨漢達の胃袋に言えて行くのを、玲はきょとんと見つめていた。

多めに作ったつもりだったのだけれど。

大男達の胃袋を少しなめていた様で。

がつがつと料理を平らげていく狛村と更木に、他の死神達も取られまいと必死で。


「…あ〜狛村。お肉あげる」


「本当か?!」


ぽんっと大きな骨つき肉を創造して、人狼の方へ投げると、幾分食卓が穏やかさを取り戻して。


「犬扱いかよ」


呟かれた冬獅郎のそれに、反応出来たのは以前見た事があった桃だけで。


「…狛村隊長…、かわい…じゃなくて、えっと」


言いかけた言葉を訂正しようと必死な桃の前から、次々と料理が消えていく。


「あぁ!酷いです、更木隊長!」


「あぁ?食わねぇんじゃねぇのか」


ぎらりと目を光らせて威嚇する更木に。


「更木さん。そんなに縛道が好きなのね?」


にっこりと笑みを浮かべた玲が問うと。


「…チッ、しゃあねぇ。これぐらいにしといてやるよ」


見事に引き退った更木を見て、他の隊長格が密かに拍手する。


「…美味しいなら美味しいと言えば良いのです」


ぽつりと漏らした卯ノ花の言葉に、更木がぴたりと足を止め。


「あら、気に入ったの?更木さん」


意外そうに首を傾げる玲の麗姿に、振り返った更木が声を荒げる。


「誰が気に入るか!んなけったいなもん食わしてんじゃねぇよ!」


「そう?じゃあ次は和食にするね」


何処と無く残念そうに微笑む玲を見て、鋼だったはずのココロに亀裂が走る。


「…く…食わねぇとは言ってねぇぞ」


「そう?あ、手抜きで良いならまだあるよ?」


ぽんぽんと空いた皿を片付けて、どこからとも無く料理を引っ張り出す玲に。

やはり得体が知れないとは思いつつ、前の様に暴言を吐く気は失せていて。


「…しゃあねぇ」


仕方なさそうに席に座りなおす更木に、やちるが嬉しそうに跳ねた。


「剣ちゃんがでれた!」


「…鬼の躾はああするんだねぇ」


「馬鹿、京楽!」


染み染みと呟く京楽に、浮竹が慌て。


「なんか言ったか、てめぇら、ああ?!」


案の定、更木の耳に届き、テーブルはひっくり返って。


「…元気になったね」


「さっきまで死にそうだったのにな」


自分の食事が入った皿を手に持ち、鬼の形相で剣を振るう更木と、笑いながら逃げる京楽を見遣る。

しれっと冬獅郎が氷で造り直したテーブルの上に皿を置き、氷のグラスで水を飲む。

当たり前の様に繰り広げられるその光景に。


「日番谷隊長、いつの間にそれ程の操作能力を…?」


唖然としている卯ノ花が問うた。

桃もやちるも七緒も浮竹も、斬魄刀解放もしていないのに出来上がる氷の造形に、目を丸くしている。


「…玲に霊力を上げてもらってから、氷輪丸が常時解放型になって…それからだな」


足元の割れた食器やグラスを玲が消滅させているのをちらりと見遣って。

彼女の力を知っているのに、これぐらいで驚かれるとは思わなかったとでもいう様に、きらきらした期待の眼差しから目を逸らす。

自分は出来るようになったが、彼等もそうとは限らない。

現に白哉は…


「常時解放、か」


成る程、そんな手があったか。

とでもいう様に、すっと手を翳した。


解放はしていない。

それでも彼の手掌に沿って、桜の刃が煌めいた。

その先には、京楽を追う更木の姿。


「な、てめ、朽木か?!うおぁ?!」


「成る程。便利だな」


出来たらしい。

気付かなかったのは、彼が感情を表に出すタイプではないからなのだろう。

冬獅郎が気付いたのも、怒りを表に出した時だったから。


「…玲。霊力あげたら全員常時解放になるのか」


「まさか。人によるよ?」


白哉の常時解放にもそう驚きも見せずに、ことりと氷のグラスを置く玲。

その言葉にやちると桃が残念そうに肩を落とした。

余程、冬獅郎と白哉のそれが羨ましかったらしい。


「鬼道系の斬魄刀は常時解放に成り易いのは確かかな」


フォローするように付け足された玲のその言葉に。


「私、頑張るね!」


桃はぱっと顔をあげ。

やちるはしゅんと更にへこんだ。

玲は、下手に確約する訳にも行かず、やちるを抱き上げてぽんぽんと撫でる。


「やちるちゃん、チョコレートって知ってる?」


「何?それ」


「甘いお菓子だよ。はい、あげる」


ふわりと優しい笑みを浮かべて、チョコレートをやちるに渡す彼女に、仇成す者などいるのだろうか。

周囲にそんな事を思わせる程、玲は美しく、誰にでも優しい。

ともすれば、残酷なまでに。


「やったぁ!わぁ、ほんとに甘くて美味しい!」


ぴょんぴょん跳ねるやちるを見て親の心情になるのは古参の隊長達。

七緒と桃も暖かい目で彼女を見ていた。


「おや、何だか穏やかだねぇ。あ、朽木隊長。別に助けてなんて頼んでないのに」


「助けたのでは無い。試しただけだ」


表情一つ変えずに受け流す白哉は動じない。

恐らく彼女を傷付けない限り。


「またまた冷たいこと言っちゃってさぁ。本当は僕が更木君に斬られるんじゃないかって心配してくれたんじゃ…うわぁ?!」


「兄も的になるか」


すっと向けられる手掌から、確かな殺気を感じて頭を下げる京楽。

彼の戯け癖も大した者なのだが。


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