Chapter7 〜奇蹟〜





「…さてと。皆少し休んでくる?それとも続ける?」


場を切り替えるような玲の声に、少し考える素振りを見せる死神達。

皆、狛村の様に体力が無尽蔵なわけでも無ければ、久方ぶりの霊圧制御に大分疲れも見えている。


「休息も、修行の内、ですね」


何処と無く皆無理をして続けそうな雰囲気を、卯ノ花がにっこりとぶち壊す。

玲は彼女の無言の圧力に気付いてはいないが。


「うん、ゆっくりで良いからね。焦らなくたって、この場所は常時解放するつもりだし。私に言ってくれれば何時でも来れるよ?」


その言葉に、安堵の表情を見せる面々。

そんな彼等にふわりと笑って。


「部屋は広間に出て左。個室ちゃんと用意してるから、扉の所の名前見てね。じゃあ、解散」


ぱんと手を叩いた玲の言葉通りに、疲れていた死神達は修練場所から姿を消す。

残ったのは、きちんと寝ていた冬獅郎と白哉、安静にしていた浮竹と、未だ倒れている更木のみ。


「…更木さん、治して転移させよっか」


呟いてあっという間に傷を治し、空間転移させる玲。


「…白哉と冬獅郎は制御終わったのか?」


「無論だ」


「まぁな」


何処と無くピリピリし始めた空気に耐えられなくなって浮竹が問うも。

最早それどころでは無い二人。


「はい、浮竹さん。制御のコツ、教えてあげるね。冬獅郎、白哉。お話は…ちょっと離れてしてくれる?」


これ程の殺気が渦巻く中でも、全く調子の狂わない玲は、浮竹にとっては救世主だ。

白哉と冬獅郎はちらりと玲を見遣ってから、瞬歩で遥か遠くへと跳んだ。


「あ、修行まだ終わってないんだから、無茶しないでね!」


そんな玲の叫びに応えたのは、空間を揺るがす程の霊圧と、氷と桜の衝突だった。


「霊圧遮断しなきゃ皆寝れないね」


溜息と共に此方と彼方の境界へ結界を張って。

幾分マシになった霊圧に未だ呆然とする浮竹にふと笑みを見せる。


「大丈夫。あれでも二人共半分ぐらいだよ」


「半分…?あの霊圧でか?」


あれだけ遠くで爆発しても、震える身体を抑えられないのに。

そう、愕然と呟く浮竹に、玲は微苦笑を浮かべた。


「…まぁ彼等は潜在霊力高い方だけど」


さらりと告げる玲に、浮竹は目を見開いた。

軽く見積もっても総隊長の五倍はあった冬獅郎と白哉の霊圧。

あれが本当に全力の半分ならば。

彼等の怒りに触れただけで、瀞霊廷は壊滅する。

卍解などせずとも。

溢れる霊力を全て破壊に回すだけで。

浮竹は甘くみていた。

昨日の鬼事に参加していなかった彼は、玲の力がどれほど常識を逸しているのかも、彼女に力を与えられた白哉と冬獅郎がどれ程危険な状態なのかも、正確に理解出来て居なかったのだ。

今なら、総隊長が少しでも時間があるのなら行ってこいと声高に触れた意味も分かる。

玲と直接戦った総隊長は、分かっていたのだろう。

もう、彼女を力で抑えつける事も、法で縛る事も、出来はしない事を。

もしも彼女を躊躇わせるものがあるとすれば、それは親しいものとの繋がりしか無い事を。

分かった上で、言ったのだ。

取り入ろうとはするな。
向こうから、気に入らせよと。
そして、出来るならば、力を付けて”戻って来い”と。


「浮竹さんも…あれくらいなら、笑って受け流せる様になるよ。今の霊力制御が出来ればすぐにでも」


ふと笑う彼女の笑みは何処と無く憂いを帯びていて。


「それに、貴方の言いたい事もわかってる。だから制御装置に、敢えて数字が見える細工をしたの。
力の使い方を誤らない様に、コントロール出来るようにちゃんと彼等には教えるから。
ねぇ、だから…そんな化け物を見るような目で、見ないで?」


悲しそうに目を伏せる玲からは贖罪と懺悔の念が見て取れた。

自分の所為で彼等を化け物にしてしまった。

最初は本当に、只の気まぐれだったのだから。


「俺が…彼奴らを止められる様になるまで…修行に付き合ってくれるか」


「浮竹さんの霊力はミミハギ様のお陰で元々総隊長よりもずっと上。
身体が弱くて、戦えなかったなら、分からないでしょうけど。
貴方は、修練さえ出来れば、ずっと強くなるよ」


「なら…先ずは制御、出来る様にならなきゃね」


ふわりと微笑む玲に魅入られそうになりながらも。

どうにか心を強くして、集中すると、浮き上がった数字は27。

先日より下がっているような気がして玲に問うと。


「そう言えばミミハギ様が力を貸してやるとかなんとか言って浮竹さんの中に戻っていったから…その分、制御出来てない霊力が加算されたのかもね」


「そう、なのか」


「早く制御終わらせたいのなら、暴発する寸言まで霊圧を上げて無理やり屈伏させる事。
効率は良いし、その制御装置を付けている限り、暴発は絶対に起こらない。
但し、少しずつ慣らしていく方法に比べれば荒いものだから疲れは溜まりやすいかもしれないけど」


コツを教えてくれる玲に頷いて、浮竹は霊圧制御に集中し始めた。

確かに彼女の力は計り知れない。

しかし、だからこそ。

此処まで手を貸してくれる彼女が、藍染の様に敵に廻る可能性は低いのだ。

瀞霊廷が邪魔なのであれば、戦力になるだろう隊長格の病気を治したりはしない。

何もかも事情を知っていて、心を砕いたりなどするはずが無い。

そう、自分に言い聞かせて。

その心の揺らぎに、玲が目を伏せている事には気付かずに。


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