Chapter8 〜修練〜
その間に、壁に空いた穴を修復し、彼等の壊した場所を修繕し、幾つかの的を創り出す玲。
それは、真央霊術院にある鬼道演習部屋を彷彿させた。
「さて。制御終わった人、制御装置貸して」
言われるがまま、制御装置を外して玲に預ける死神達。
それに少し力を加えて、彼女は其々に返した。
「数字の色は変わった?
それは元の霊圧制御装置に、貴方達の霊力演算機能付け足した物だよ。
今の封印率と総霊力、扱う術に対する拡散率、霧散率、集束率、転換率を数値化してくれる。
つまり、どれだけ霊力を無駄に消費しているかを教えてくれるもの」
その言葉を聞いて、死神達は微妙な顔をする。
彼等とて、曲がりなりにも隊長を任されている者達。
今更鬼道演習を促す様な玲の言葉に素直に頷けないのも無理はない。
そんな彼等に、玲はくすと笑った。
「不満なら、適当な鬼道を彼処へぶつけてみれば良いわ。但し、ちゃんと詠唱してね。じゃなきゃ、数メートルも飛ばないよ?」
挑発するような玲の言葉に中々動かない隊長達を見て、冬獅郎が的に向き直る。
「何でも良いんだな」
「うん」
確認する冬獅郎に、頷く玲。
それを見遣って、冬獅郎は詠唱を始めた。
「散在する獣の骨尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪動けば風止まれば空槍打つ音色が虚城に満ちる」
収束する霊力は、彼が力を増した分大きくなっている。
けれど。
「破道の六十三、雷吼炮」
放たれた雷のエネルギーは、発射地点と的の間で何度も弾け、半分足らずで消滅した。
「な…」
目を見開く冬獅郎に、玲が問う。
「冬獅郎、数値は?」
「…43、38、57、62だ」
「あら、思ったより高いね。流石天才」
ふふっと笑う玲に冬獅郎はジト目を向ける。
「嫌味か?」
「冬獅郎の捻くれ者」
ぽつりと呟いた玲は、数値の詳細を口にする。
「上から、拡散率、霧散率、集束率、転換率。
拡散と霧散は小さければ小さいほど、集束と転換は大きい程威力が増す。
因みに的と発射点の間に張ってある結界は霊力拡散の効果を持つ。
番号の高い鬼道を打てば良いんじゃないの。必要なのは霊力の凝縮。一点を貫通する促進力と破壊力」
「先に言えよ」
不機嫌な冬獅郎に、玲はくすと笑う。
「普通に打った隊長格の集束率と転換率がどの程度かなと思って」
今まで黙って聞いていた白哉が、すと的を見遣って、玲に問う。
「つまり、我々隊長格でも、霊力の半分以上を無駄に使っていると、そういう事か」
「そうだね」
頷いた玲に、京楽が椅子から立ち上がる。
「やれやれ、つまりはさっき君が打ったような蒼火墜を打てば良いんだね?」
「先に言っておくけど、鬼道にはそれぞれ飽和霊力が存在する。
がむしゃらに霊力込めても暴発するから、気を付けて。
因みに、この霊力コントロールは鬼道だけじゃない。
斬魄刀も回道も歩法も全て、霊力集束率と転換率は反映されるからね。
それでも馬鹿らしいと思うなら、帰っていいよ」
その念押しに、やる気の見られなかった死神達も目を瞬かせる。
「玲ちゃん。因みにさっきの蒼火墜、集束率と転換率は?」
「集束率が100、転換率が99…ぐらいかな?」
自分には創っていなかったと思い立ち、早速、霊力封印率と、総霊力、霧散率、拡散率、集束率、転換率を演算するそれを、創造して、腕に嵌めてみた。
「あぁそう…」
がっくりと肩を落とした京楽は身に沁みた。
つまりは、先日の鬼事で、玲に勝てる確率など初めからゼロに等しかったのだと。
元々持ち得る霊力が多い上に、斬拳走鬼を一切の無駄なく熟す彼女に、一体誰が勝てるというのか。
霊力の転換率が低いということは、鬼道の威力が落ちる以外にも、斬術でも威力、持久力共に落ちるという事で。
逆に考えれば、転換率が最高値なら、いつもの倍は戦えるという事だ。
「んじゃま、やりますか…」
すっと真剣味を帯びた京楽につられ、卯ノ花、浮竹、七緒も鬼道詠唱を始める。
冬獅郎は玲との会話を終えてから、ずっと鬼道を打ち続けていた。
その飛距離が、少しずつ伸びているのは気のせいではない。
白哉も的へ向き直ると、玲はふわりと微笑んで、修練場所を出た。
なんだかんだ言いながらもきちんと修行する死神達に食事を作る為に。
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