Chapter8 〜修練〜





ふっと意識が浮上する。

すぐ側に、人の気配を感じて、気怠さを堪えて起き上がった。


「っシロちゃん!」


「雛森…?」


泣きそうな顔の幼馴染に、記憶を整理して状況を理解する。

霊子変換で体力が限界を超えて半ば意識が無くて。

玲に止められて、気絶した。

あれから、どれだけ時間が経った…?


未だ隣で目を覚まさない朽木を見て、俺ははっと目を開く。


「シロちゃん!起きたなら、早く玲ちゃんの所に行って!このままじゃ玲ちゃん、壊れちゃう…!」


余りに狼狽している幼馴染を放って行くのに、僅かに躊躇うものの。

結局俺は焦燥感に耐え切れず、すぐに部屋を飛び出した。

不安定に揺らぐ霊圧を辿って修練場所に駆け込むと、見た事もない程危うげな玲が居て。

彼女を抱き締めるのに、他の死神達の存在すら気にならなかった。


「…と、しろ?」


何時も強い意思を湛えていた琥珀の瞳が、弱々しく揺れていて。

我武者羅に鬼道を打ち続けていた華奢な手は、傷付いていた。

疲労の色が濃いのは、眠れなかった所為か。

自分があんな事をした所為で、彼女が此処まで憔悴するとは思っても見なくて。

けれど、玲が一人で眠れない事を知っていたはずの自分を殴りたくなった。


「悪かった。もう、一人にしねぇから…」


彼女を一人にさせない。

任務だって、すぐに終わらせればいい。

四番隊の世話にならないぐらい強くなればいい。

それでこんな姿を見なくて済むのなら。

何でもしてやると。

そう、思った。

琥珀の瞳が安堵の色を浮かべて。

すっと瞳が閉じられる。


「玲?」


腕の中で、彼女は眠っていた。

俺の羽織を掴んだまま。

ほっと息を吐いて、漸くそこに各隊長、副官達が居たのを思い出す。

冷やかされるんだろうと思ったが彼等が向けるのは温かい、安堵の表情だった。


「やっぱり敵わないねぇ」


冷たい空気を霧散させ、あどけない寝顔を見せる玲に、小さく溜息を零す京楽。


「京楽隊長は、鬼道で追い払われてらっしゃいましたしね」


くすくすと、その光景を思い出して笑う卯ノ花。


「俺もそう変わらないんだがな…」


余りにあっさりと触れる事を許される冬獅郎に、浮竹は肩を落としていて。


「玲ちゃんはひっつーかびゃっくんじゃなきゃダメなんだよ!」


恐らく玲を寝かせようと、落ち着かせようと躍起になったのだろう隊長達に、やちるが自慢げに声を上げて。


「何が違うのでしょうね」


不思議そうに首を傾げる七緒と。

憮然と腕を組む狛村。


「起きたら死合に付き合えって言っとけ」


更木までもが何処か安堵の表情を見せていて。

彼等も手を尽くしてくれたのが分かった。


「…すまない、礼を言う」


素直に頭を下げると、ふっと隊長達が笑った。


「一緒に居てあげなよ」


「分かってる」


京楽の言葉に頷いて、俺は自分の名が書かれた部屋に玲を運んだ。

一向に羽織を離さない華奢な手を撫でて。

そのままベッドに横になる。

濡羽色の髪を撫でると、無意識に擦り寄ってくる彼女を抱き締めた。

隊長達にすら触れさせもしなかった玲が、心を許してくれているのを改めて実感して。

未だ残る気怠さに身を任せた。


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