Chapter8 〜修練〜

目が覚めると嗅ぎ慣れた彼の香りがして。
昨日の心の乱れが嘘のように落ち着いていた。
何と無く、分かった気がする。
私はこの温もりを失いたく無いのだと。
彼等が居なければ、私の心は何処にも無いのだと。
ふと知らない感情が込み上げて、綺麗な顔に口付けてみる。
すると、寝ていると思っていた彼の霊圧が揺らいで、翡翠の瞳が覗いた。
「分かっててやってんのか?」
「何を?」
不味かったのかと視線を逸らすと、ふっと彼が微笑んだ。
「怒ってねぇよ。目逸らすな」
言われて視線を戻すと、柔らかい笑みに目が逸らせなくなる。
「冬獅郎、ずるい」
「何がだ」
問われるも、その色が、顔立ちが綺麗すぎて、なんて言えず。
とんと彼の肩に額を乗せると、するりと髪を撫でられた。
その感覚が擽ったくて、心地良くて。
ずっと、なんて叶わないこと分かってるけれど。
もう少しこのままで居たいなんて、不思議な感覚に囚われる。
けれど、昨日食事を作ってからそれなりに時間が経っていることを思い出して、顔を上げた。
けれど。彼の手に頭を抑えられ、綺麗な顔が近付いてきて。
目を閉じると、唇に熱。
何時ものように直ぐに離してくれるだろうと思っていたのに。
啄むように、角度を変えて何度も落とされる口付けに、身体が熱く熱を帯びた。
「っふ、と、しろ…んんっ」
息苦しくなって口を開くと、するりと滑り込んでくる熱い舌。
くちゅと耳朶に響く水音が卑猥なことくらい私にでもわかって。
舌を絡められ、口腔を蹂躙する様にしか動き回るそれに、段々と力が入らなくなって、彼の胸に倒れこむ。
「…う〜、馬鹿…」
「恐がらなくなったな?」
確かに恐くはなかったけれど。
それは前よりずっと彼が優しかったからで。
否、本当にそうなのか。
自分も彼に触れたいと思った。
どうしてかなんてわからない。
寂しかった反動なのか、それともまた別の感情なのか。
思考に沈むと、ずきりと頭が痛んで。
それ以上考えるなと言われている様で、息を吐いた。
「…冬獅郎とこうしてると安心する。けど、まだ…わからないよ」
またふわりと撫でられて、目を閉じそうになる。
けれど。
「あ、ご飯作らなきゃ」
ぱっと顔を上げた私に、彼は微苦笑して。
「手伝うか?」
「うん、ありがと」
今日は一緒に作ることにした。
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