Chapter8 〜修練〜





「やちるちゃん。私達、良いのかな」


「え〜あんなところ飛び込めないよ?」


気まず気に戦いを見守る桃に、やちるがこてんと首を傾げる。


「玲さんは、翼での攻撃を私達には向けませんでした。このゲームでの彼女の目的は戦意喪失。恐らく、彼女は其れを分かっているのでしょう」


「でしたら、彼方でお茶でも飲んでいましょうか」


七緒の分析に頷いて、卯ノ花が無傷のテーブルを指した。

いつの間にか皿が片付き、ティーセットが並んだテーブルに。

女性死神達は、複雑な気分で座ったのだった。


目の端で、桃、やちる、七緒と卯ノ花が戦線離脱したのを確認し、玲はテーブルの周囲に鏡門を張った。



余裕の挑発に、冬獅郎と白哉が無言で霊圧を上げる。

其れに同調するように、氷輪丸と千本桜が形を変えた。

氷輪丸は巨大な翼を広げ九つの頭を持つ龍に。

千本桜は、無数の刀の形へと。


「浮竹。日番谷の方へ」


白哉の意図を理解した浮竹が瞬歩で移動し、玲と冬獅郎の間の崖に降り立った。

それで冬獅郎は理解したようだ。


「あ〜…じゃあ僕は、彼女を嵌めれば良いんだね」


「狛村に手伝って貰うといい」


「あいよ。狛村隊長」


「分かった」


漸く協力体制を取り始めた隊長達にやれやれと溜息を吐いて。

玲は渦巻いていた力を、攻撃へと変換する。

風の力は馬に、炎の力は鳥に、水の力は狼に、土の力は蛇に姿を変え。

雷は空へ昇り、氷輪丸の天相従臨を相殺し。

氷はその場で結晶のように玲を覆った。


「わぉ」


「喫驚している暇は無い」


放たれた炎の鳥が氷を溶かし、風の馬が千本桜を打ち払う。

水の狼が黒縄天譴明王を抉り、土の蛇が更木の動きを封じた。


「っち、浮竹!」


「分かった!」


氷の龍を溶かし尽くさんばかりの熱量に、冬獅郎は霊圧を更に上げて耐えながら叫ぶ。

放たれた四つの龍のうち、一つを双魚の理で威力を上げて、時間をずらす。

白哉は殲景状態から吭景へと変化させ、風の馬を押し留めながら、狛村を見遣った。


「行け、京楽!」


「はいよ。嶄鬼!」


黒縄天譴明王を足場に、玲よりも高く跳ねた花天狂骨のゲームルールが、彼女を縛る。

桜の刃が高速で回転して襲いかかり、双魚の理から数倍の威力を持つ氷の龍が放たれる。

その瞬間、更木が霊圧を跳ね上げて土の蛇を引きちぎり、鬼の形相で玲に刀を振り下ろした。


「ん〜、及第点…かな」


ぱんっと氷が散った其処には、花天狂骨の影響を霊圧で跳ね返し、更木の凶刃を片手で受け止めた玲が居た。

彼女自身は無傷。

しかし、もう片方の手には虹色に色を移ろわせる、恐ろしく美しい斬魄刀があった。


「ゲームでは勝った、けど何かなこの遣る瀬無さ」


結局擦り傷を負わせられたのも最初の千本桜と氷輪丸だけ。

しかも、玲は殆ど動いてすら居なくて。


「白哉と冬獅郎は他を気にし過ぎて力が出し切れてない。
京楽はやる気なさすぎ。
浮竹さん、自分の霊圧にもう少し慣れて。
更木さんもうちょっと、頭使おうね。
狛村は…うん。まぁいっか」


「言葉に困る程であったのか」


「えっと…忠誠心が強いなぁと」


結局卍解したきり、攻撃の一つも加えられなかった彼の頭をぽんぽんと撫でる。

しゅんと耳が下がっているのは、叱られたとでも思っているのか。

すっと天照を戻して、玲は地面に降りた。


「ちょっと疲れたから甘いもの食べよ」


振り返って微笑む彼女は、今まで戦っていたとは思えない程、呑気で。

しかし、美し過ぎて。

その眩しさに目を細めたのは、恐らく京楽だけでは無い。


「…烏滸がましい、のかも知れぬな」


あの少女を、捕らえたいと思う心すら。

その力も、清らかさも。

圧倒的過ぎて、近くに居るのに、届かない。


「玲」


呼ぶと振り返る彼女は確かに其処に居るのに。

酷く遠い、気がした。




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