Chapter9 〜流転〜

「白哉、お邪魔するね。ルキア、元気になった?」
すとんと庭に降り立った麗人の背から金色の翼が霧散し、明るい声が降りる。
「玲、ルキアに会いに来たのか?」
「え?うん、そう…「嘘でも違うって言っとけ」
玲の返事を遮ったのは、氷の翼で後を追って来た元天才児だった。
「え、何で?」
「拗ねるぞ」
―拗ねる?!誰が?!
一護の心の中は大混乱だった。
隣の恋次も、唖然としている。
「あら、白哉、拗ねてたの?」
そんな中。
くすと笑って、白哉の側へ移動し、彼の手を取る麗人に。
最早何処から突っ込んで良いのか分からない一護が目を回し始める。
「拗ねてなどおらぬ」
玲からついと視線を背ける白哉は、その場の誰もが見た事も無いほど、表情が幼かった。
「だー!冬獅郎!!説明しろ!」
「日番谷隊長だ!で、何のだ?」
呼び捨てて、一瞬こめかみに青筋を浮かべる所は変わっていない。
しかし、以前よりも精神的に大人になったのか、切り替えの早くなった彼に一瞬口籠る。
白哉と彼女の関係を聞きたいのは山々だが、そんな事を本人の前で問えば、桜の刃が舞いかねない。
「あ、そうだ。お前卍解して此処に来たのか?」
「聞きたいのはそんな事か?解放許可も出てねぇのに空飛ぶために卍解なんかする訳ないだろ」
「じゃあさっきの翼は?あれ、卍解した時のじゃねぇのか?」
くすくすと笑う玲と、初めて見る白哉の困り顔を視界の端で捉えつつ、大きくなった銀髪の青年に問いかける。
少し前までは小学生と変わらない出で立ちだったのに、今は一護よりも身長が高い事に少しムッとしながら。
「氷輪丸が常時解放型になってな。氷で創れるものならもう殆ど網羅した」
「いや、意味わかんねぇよ?!どうやったら斬魄刀が常時解放型になるんだ!つーかんな便利な常時解放があってたまるか!」
「知らねぇよ。詳しい事は玲に聞け。彼奴が俺の霊力を引き上げた時にそうなったんだ」
「それも玲さんかよ?!もうお前等色々感化され過ぎだろ!てか、霊力なんか引き上げられんのか?」
色々と理解が追いつかず、叫ぶ一護に、煩そうに片耳を抑える冬獅郎。
其処へふと現れた玲が、人差し指を一護の額に当てた。
瞬間、縛られたかの様に固まり、瞬きする一護。
「玲、何をした?」
「長話になりそうだったから、情報を直接記憶に書き込んでみた」
「相変わらず予想のつかぬ事をする」
「冬獅郎が可哀想だったから」
そんな会話を余所に、強制的に色々理解させられた一護はと言うと。
書き込まれた情報を上手く飲み込めずに頭を抱えていた。
「これ、大丈夫なのか?」
流石に憐れみを感じた冬獅郎が玲に視線を向ける。
が、ばっと立ち上がった一護が玲に頭を下げる方が先だった。
「玲さん!俺も、鍛えてくれ!」
必死の形相で頼み込む一護には、成る程情報は伝わったらしい。
でなければそんな発想には至らない筈だから。
けれど、玲は目の前のオレンジの髪をくしゃくしゃと撫でた。
「貴方は、先に抑えなきゃいけないものがある筈。そしてそれは、私より向いてる人が居るよ。今あるものをちゃんと制御出来たら、鍛えてあげる」
「あんた、何処まで知ってるんだ」
顔を上げた一護が、呆然と玲を見る。
けれど彼女はくすりと笑って。
「教えたでしょう?私は世界に生み出された調停者で、貴方たちは世界の一部。知らない筈がないでしょ?」
至極当然の事の様に紡がれる言葉は信じ難い。
けれど、酷く神秘的な容貌の彼女が語ると、何故かすんなりと納得してしまって。
「…分かった。アレを抑えるのに、あんたより向いてる人、探せば良いんだな」
そんな人物が居るとは到底思えなかったけれど。
玲が嘘を吐くとも思えなかった一護は、頷く他無かったのだった。
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