Chapter10 〜予兆〜

身体を洗ってお湯に浸かると、ほっと詰めていた息を吐き出す。
お風呂に浸かるのはかなり久々な気がする。
修行場所にも大浴場は作ったけれど、あまり使う余裕も無かったし。
やっぱりここのお風呂が一番落ち着く。
まぁ、今日はゆっくり出来なさそうだけれど。
脱衣室で何か声が聞こえて、がらりと浴室の扉が開く。
「ほら、ルキア。緊張しておるのはお主だけだぞ?」
「あ、はい。その様、ですね」
夜一とルキアは身体を洗いにシャワーの方へと向かう。
其処で真っ裸の夜一が、タオルで身体を隠しているルキアをいじり倒す声を聞き流しながら。
私は一人、天窓を見上げた。
空には三日月が淡く輝いていて。
私が今は個である事を知らしめる。
太陽よりもずっと強く。
それはまるで戒めの様に。
今の私は人の身体。
霊子で構成された魂魄と同質。
彼女らと、殆ど違いはない。
本能が要求しないだけ。
人にある欲が、自分には無い。
ただ、それだけなのだけれど。
酷く寂しいと思ってしまう私は弱いのだろうか。
「どうした?玲。その様な顔をするでない」
いつの間にか湯船に入ってきていた夜一が、すぐ側にいた。
「なんでも無いよ」
ふと最近癖になって来た笑みを浮かべてはぐらかすと、夜一が不服そうに眉を顰めた。
そのまま、何故か腰に手を回されて引き寄せられる。
「なんでも無い顔では無いがの。まぁ、儂が訊き出すにはちと共におる時間が足りぬか。それにしてもお主良い身体をしておるのぉ」
彼女の手が腰からお尻に滑って、思わず目を見開いた。
「ちょ、夜一?何して…やっ」
もう片方の手で胸を揉まれて、思わず声が漏れる。
「腰も足も細い癖に出るとこ出おってからに。で、誰かともうやったのか?」
「へ?何を…ひぅ」
「惚けるな。お主が先程種を残す手段だとか言いおった交わりよ」
「だから、私は「女の儂に触れられても反応しておるのにか?お主の身体はそうは思ってない様じゃがの」」
腰に手を回されたまま、やわやわと胸を揉みしだかれて。
だからと言って裸の女性相手に、攻撃らしい攻撃など出来るはずもなく。
「も、やめ…ルキア、助けてよう」
顔を赤くして呆然と此方を見つめるルキアに助けを求めると。
「夜一さん!何をして居るのですか!」
はっと我に返って叱責してくれる彼女。
だが、夜一はにやりと悪どい笑みを浮かべる。
「いや何、思ったより触り心地が良くてのぉ。ルキアもどうじゃ?柔らかいぞ?」
巻き込もうと誘う夜一と、それに若干の迷いを見せるルキアを見て。
私はさっと青くなった。
「玲、済まぬ」
あっさり裏切られた私は、夜一の拘束を振り解けず、外に助けを求めた。
流石に浴室に桜の刃が閃いた時は驚いたけれど。
それに気を取られて、夜一の力が緩んだ隙に浴室を飛び出した。
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