Chapter10 〜予兆〜





「にしても美味いよなぁ、此処の飯」


さっきの騒動を知らない一護が呑気に呟く。

当然だろう。

使われている食材から既に、一般人が手の届くものでは無いのだから。

玲も、此処で食べる夕食は好きだった。

高級料亭にでも行かなければ食べられない様な物が、当然の様に出て来るのだから、最初は驚きもしたけれど。


今日は各部屋では無く、広間で食事を摂っている。

それは余りにも客人が多過ぎるからで。

序でに言うなら、夜一は玲が余りにも警戒する為に消沈して、謝りたいと白哉に直接告げたからだったりもする。

既に覇気の無い夜一に平謝りされた玲は、もうしないでね、の一言でそれを許し、今は普通に接している。

ルキアは未遂だった為、取り敢えず今まで通りだった。

白哉の隣で食事をしながら、一護とルキアの掛け合いを見てくすと微笑む。

まるで子供の様なやり取りが、何だか可愛らしかった。

恐らく彼女の中で、一護が可愛いと言う認識は此れからも変わらないままなのだろう。


「なぁ、玲。お主が無茶をするのは、瀞霊廷の為か?其れとも、護りたい者がおるからか?」


少し声を抑えて問われたそれは、昼に話した浄界章の話の続きか。


「両方、かな」


言葉少なに答えたそれは、そんな単純なことでは無くて。

バランサーである死神は、調停者として護らなきゃいけない。

けれど、その死神の中に、特に護りたい者が居るから、無理を承知で力を振るう。

それが喩え、世界の意に反したとしても。


「余り気負うなよ」


「私は、出来ないことはしないよ」


呟いて、煮物を箸でつまむ。

口に運ぶと、頭の中でほぼ無意識に味付けの成分をパーセンテージで表示する情報をシャットアウトし、意識を外に向けた。

食事の時、白哉は殆ど話さない。

今日は時折桜が舞っている様だから、何も聞いていないわけじゃ無いんだろうけど。

標的は全て一護だから、私も笑って受け流す。

明日には彼等は帰るのだ。

今日ぐらい、好きにさせてやろうと、隣の白哉をつつくと、彼は仕方ないとでも言いたげに指を降ろした。


「てめ、飯の途中に何て事しやがる!」


「汚い。飲み込んでから喋れ」


確かにと納得したのか、咀嚼、嚥下してから再び口を開く一護。

しかし、さっきまでの勢いは無くなっていた。


「つーか、白哉。斬魄刀、解放してねぇよな。今持ってすらいねぇし。何で今も操れんだ?」


「常時解放になり、力がより強力になった千本桜と結び付きも強まった。それだけの事」


「それだけって…いや、マジで止めてくれ。解放しなくてもあの刃が飛んで来るとかどんな冗談だ」


ぶるりと身体を震わせる一護に、玲がくすくすと笑う。

ルキアも夜一も笑っている。

穏やかな夜は、こうして更けていった。


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