Chapter10 〜予兆〜





翌日。

総隊長から直々に命を受けた玲は、九番隊の隊主室に山積みになっている書類を仕分けていた。

他隊の手伝いならば、前に約束した雛森の所が良いと不満を言ってはみたのだが。

先日まで現世任務で仕事が出来ず、且つ編集局も併設されている此処が一番大変なのだと言いくるめられては、仕方ない。

締切が近い瀞霊廷通信の統括で走り回っている檜佐木に変わって、執務整理を手伝っているのだった。

それにしても。

現世任務で出ていたからなんて理由でまかり通らない程溜まりに溜まった書類の山を見て、一つ溜息を吐く。

此処がこんななら、隊長不在の三番隊も五番隊もそこそこ大変なんだろうなぁなんて思いつつ。

黙々と急ぎの書類とそうで無い書類を仕分けていく。

どの道今日中に片付けるつもりではあるものの、やはり期限の過ぎている書類もあった為、午前中に回したほうが他も慌てないだろうと踏んで。

そうして、仕分けた急ぎの書類の山(最早エベレスト)を見上げ、再び溜息。

話し相手は居ないし、書類は部屋中に積み上げられているし、どんな拷問だと心の中で総隊長に毒突く。

そうしながらも、墨を擦り、筆を取って書類をぱらぱらと捲り目を通していく。

隊長印すら丸投げされた状況で、黙々と書類を仕上げていく。

至急の物は、辺りを走り回っている隊士を捕まえて持って行かせ、時折訪れる女性死神(何故か崇拝されている)にお茶を淹れてもらいながら。

昼になる頃、漸く急ぎの書類が全て片付いたものの、玲の機嫌は宜しくない。

これだけ仕事を溜めに溜め込んだ張本人が、一度も顔を出さないのだから無理も無いが。

朽木の屋敷で貰ったお弁当を広げていると、バタバタと此方に走ってくる霊圧を感じる。

が、不機嫌オーラ全開の、今にも針にでもなって襲いかかってきそうな重い霊圧はそのままだ。

勢いよく開いた扉と同時に、霊圧に充てられがくりと膝を付く黒髪の男。

顔に刺青が入った此処の部屋の主は、だらだらと冷や汗を流している。


「…あの…玲…サン…」


「何?」


わざと剣のある声で返すと、檜佐木はその場で綺麗に土下座した。


「すみませんでした!お怒りをお鎮めください!」


必死に謝る彼だけが悪い訳では無い事ぐらい、分かっている。

人手が足りないと分かっていて、見て見ぬ振りをしている総隊長も、離反した元隊長も悪い。

だから別に仕事を押し付けられたから怒っているわけじゃ無いのだ。


「修兵」


「はい…?」


上げられた恐怖で真っ青な彼の顔を見て、溜息と共に霊圧を抑える。

押さえつけるような重苦しい空気が霧散し、刺すような霊圧が普段の穏やかで暖かいそれに戻る。

ほっと息を吐いた檜佐木に、玲は少し剥れて言った。


「お昼ぐらい、一緒にいるよね?」


何処と無く拗ねた様子の彼女に、心臓を貫かれた様な衝撃を受ける。

単純に玲が寂しがりなだけなのだが…
それを知らない彼には、麗人が放って置かれて拗ねているとしか映らない。

強ち間違っては居ないのだが…
檜佐木の理性は既に崩落寸前だった。


「あぁ。済まなかったな、一人にして」


歩み寄って、玲を慰めようと…(あわよくば襲ってやろうと)手を伸ばすも、ぱしりと霊力で弾かれる。


「修兵。鬼道か瞬閧か…選ばせてあげるよ?」


にっこりと笑う彼女の目は笑っていない。

調子に乗るなと言葉と圧力が語っていた。


「…どっちも、遠慮させてください…」


消沈した檜佐木が玲に敵うことは有るのだろうか。

すごすごと自席へ戻る檜佐木に、玲はくすりと小さく笑った。



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