Chapter10 〜予兆〜

食事を終えて、無難に乱菊の所に差し入れすると、丁度檜佐木と阿散井が居て、喜んで食べる様子に微笑んで。
部屋に戻ってきて、洋書の料理本を開く。
ごろりとベットに寝転がって、溜息を吐く。
因みに冬獅郎は浴室だ。
「あ〜言語理解能力、今だけで良いから消してくれないかな」
言葉にして呟くと、ふっと目の前の文書が訳のわからない記号に変わった。
如何やら情報を抜き取ってくれたらしい。
誰がって、勿論世界が。
この分じゃ私の記憶なんて簡単に消せちゃうんだろうな、なんて自嘲しつつ。
本棚の前に移動して料理本ではなく、物語らしい表紙の本に手を伸ばす。
そして再びベッドに寝転びながらページを捲っていると、呆れを孕んだ声が落ちてきた。
「ん、あがったの?」
「お前な。幾ら何でも男の部屋でその格好はねぇだろ」
突っ込まれて、自分の姿に視線を移す。
うつ伏せで本を読んでいて、膝から下の死覇装は捲れ上がっている。
足袋は脱いでいるから素足で。
如何やら袴じゃない分、捲れやすいらしい。
けれど、下着が見えてる訳でも無いし、貞操観念と言うものは私の中にはちゃんと存在しないからか、よく分からない。
「んー…何がダメなの?」
問い返すと、呆れを孕んだ溜息が降ってきて。
「もう良いから、お前も入ってこい」
「うん?分かった」
首を傾げながらもさっき取ってきていた浴衣を手に浴室へ入る。
と言っても、白哉のお屋敷と違ってシャワーだけだけれど。
不満なんじゃ無い。
少し物足りなく感じるだけで。
髪を洗って洗髪剤を落とし、身体も洗うと、側にあった手拭いで水気を切る。
浴衣を着て緩めに帯を巻き、部屋へ戻ると、冬獅郎が私が読んでいた洋書を見て首を傾げていた。
「こんなもん、此処にあったか?」
「え?冬獅郎のじゃないの?」
「俺は料理に関するもんしか買ってねぇ」
「…紛れてたのかな」
その言葉で、彼は眉間の皺を深くする。
「自分の部屋に置いてるもんぐらい把握してる」
どうやら機嫌を損ねたようだ。
「私が物語読みたいって思ったから、とか?天照、創った?」
―否。私はあなたの意志が無ければ創造は出来ません。
その返事で更に首を傾げた。
さっき触っても嫌な気配はなかったから、霊的な何が関わってるとも思えないのだけれど。
「ん〜…分かんないね」
「…見た限り、何も無さそうだが…読むのか?」
「ダメかな」
「いや、只、得体が知れねぇのは確かだぞ」
「まぁ、私も得体が知れないし」
「そういう事言ってんじゃねぇよ」
脱力した冬獅郎から洋書を受け取ってぱらぱらと捲る。
何処か、さっきと違う気がしたのは気のせいだろうか。
不思議に思っていると、冬獅郎が灯りを消したので、明日見ようと死覇装の上に置く。
ぽふっと寝台に飛び込むと、月明かりで彼が意地悪気に笑ったのが見えた。
「そういえば、覚えてろって言ったよな?」
反射的に逃げようとするも、既に腕はしっかり掴まれていて。
「物覚え良すぎるのもどうかと思…んんっ」
反論する前に、息も出来ないほど深い口付けをされて。
力を奪われて、ぐったりと彼に寄り掛かる。
「意地悪」
「そうか?まだ加減してるぞ」
「…お願いだからそのままで居て」
「しょうがねぇな」
そんなやりとりにふと笑みが溢れて。
心が温かくなる。
氷の化身なんて斬魄刀の所持者だとは思えないくらい。
彼の側は心地良い。
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