Chapter10 〜予兆〜





「何作るんだ?」


「ミネストローネ。冬獅郎は?」


「…それ、トマトスープだったか?なら、ローストビーフでも作るか」


彼の口から片仮名の料理名が出た事に一瞬固まって。


「もしかして、勉強したの?」


その問いに、彼は黙って本棚を指す。

其処には、フランス、イタリアンその他諸々の料理本が挟まっていて。


「流石。勤勉」


「解読に一日掛かったぞ」


「え?本場のを買って来たの?」


「取り寄せだけどな。現地の死神に送らせた」


「あら、流石天才?うん、現世の英語とかフランス語一日で解読出来るのは凄いね」


「お前も読めるだろ?」


「さぁ?後で見てみる」


そんな会話の後、二人で調理を始める。

こういう時、如何しても尸魂界で手に入らない調味料や材料以外は創造はしない。

理由は単純、つまらないから。

料理だって、手をかけたほうが美味しくできるし、楽しい。


ミネストローネを煮込みながら、片手間に前菜として鳥胸肉でテリーヌを作りつつ、冬獅郎を見遣る。

料理慣れしている筈の銀髪の彼は、初めて作る和食以外の料理に悪戦苦闘中。

時折料理本と睨めっこしながら作っているのが微笑ましくて、手は出さない。

料理の腕は、あの修練場所で生活している内にいつの間にか上がったので、私は書き込まれた情報通りに手を動かすだけなのだけれど。

因みにオーブンは今さっき創って、冬獅郎はそれとまた睨めっこしてる。

ボタンをピッピと押しながらも、眉間のシワが増えてくのが、何とも分かりやすい。


「冬獅郎。説明書」


「…チッ」


何か不服だったらしい。

機械の扱いが分からないのがそんなに悔しいんだろうか。

ぱらぱらと薄いそれを捲って、納得したらしい冬獅郎がオーブンの温度設定をしているのを、見遣って。

私は出来てしまったテリーヌを冷蔵庫へ入れ、ミネストローネの火を弱火にして、デザート作りに取り掛かった。

此処がもう殆ど現世のキッチンと変わらない事に突っ込みを入れる者は残念ながら居ない。


卵を割ってプリンのレシピを思い返していると、オーブン任せで手持ち無沙汰になった冬獅郎が怪訝そうに此方を見ていた。

うん、今度カメラ作ろう。

珍しい姿にカメラを向ける七緒ややちるの気持ちがちょっと分かる気がする。

怒られそうだけど。


プリン液をカラメルを入れた型に流し込んで蒸し器で蒸す事少し。

時間短縮ぐらいは使って良いだろうと、蒸し器とオーブンの経過時間を加速させ。

目を瞬かせながら、焼き加減を見ている冬獅郎の横で、蒸し終わったプリンを冷蔵庫にいれる。


「…やけに早く焼けたな?」


「そりゃあ、加速させたし」


「だと思った」


小さく溜息を吐きながらも、ローストビーフを切って行く冬獅郎は、少し慣れ過ぎな気がするのだけれど。

それは白哉も同じか、と思いつつ、テリーヌをテーブルに運び、ミネストローネを器によそう。

プリンの冷却時間は待ってられないためこれも少し加速させておいて。

ミネストローネをテーブルに運ぶと、冬獅郎がローストビーフを大皿に盛り付けて持ってきた。


「ん、完成。初めてにしては綺麗に出来たね」


「見た目はな。味は知らねぇぞ」


そう言いつつ、食べたそれはとても美味しくて。


「ん、美味しい。でも、食べきれないね」


少し作り過ぎた気がするそれは、普通に考えて食べられる量では無い。


「…後でどっか持ってくか」


ふぅふぅとミネストローネを息で冷ます冬獅郎は猫舌で。

そんな姿が可愛く見えてしまって、くすと笑う。


「何笑ってる」


「えっと、可愛いなと」


「そうか。後で覚えてろ」


「え、やだ忘れた」


こんな会話のやり取りさえ、楽しいのだから彼は不思議だ。


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