Chapter2 〜天賦〜

戻ってきた玲はひどく上機嫌だった。
「何かあったか?」
気になった白哉がそう問うと、玲は嬉しそうに砕蜂との事を話した。
そして、午後から松本にお誘いを受けたということも。
「…そうか」
凪いだ心に波紋が広がるのを自覚しながらも、白哉は顔色を変えずに彼女の話を聞いていた。
「うん!だから、午後から向こう行くね。あ、お茶入れてくるから待っててね」
「あぁ」
玲が隊主室の奥へ消えると、恋次が複雑そうな自然を送ってきていた。
「なんだ」
「いや…隊長、やけに彼奴を気にかけて…」
無駄口を叩こうとする恋次にすっと目を細めると、ぴたりと口を閉じる。
「…仕事するっス」
「黙ってしろ」
「…うっス」
そこへ盆を持った玲が戻ってくる。
「あれ、なんかピリピリしてる?」
首を傾げる玲に何でもないと首を振る。
「…休むか」
「うん。お茶菓子も貰ってきたから食べよ」
長椅子に向かう玲の盆の上に、湯のみが二つしかない事に恋次が気付く。
「おい、俺の分は…」
「あれ?恋次もいるの?」
きょとんと首を傾げられ、彼はがくりと肩を落とした。
「…いや、いい。どうせ俺なんか…」
ジメジメとした空気を纏いながら、卑屈っぽくぼやく恋次に、玲が苦笑して、お茶を差し出す。
「はい、冗談だよ。ほら休憩しよ」
「…あ、あぁ…って、お前最初から…」
再度盆の上に目を向けると、湯のみは後二つ。
恐らく玲が幻覚か何かで隠していたのだろう。
「だって恋次からかい甲斐あるんだもん」
くすくすと笑う玲と、何処と無く不機嫌そうな白哉。
恋次は、自分も長椅子に移動する勇気は持てず、茶菓子とお茶をその場で受け取った。
「そこでいいの?」
「俺は隊長みたいに万能じゃねぇんだよ。休憩なんざしてたら終わんねぇ」
「…そうなんだ」
納得されてしまったことにイラっとした恋次だが、白哉の前で声を荒げる訳にも行かず、黙り込む。
そんな彼に首を傾げた玲だが、それ以上は何も言わずに白哉の待つ長椅子に戻っていった。
お茶を一口飲んだ白哉がぽつりと呟く。
「美味いな」
「ふふ。ちゃんと手順守って淹れるとそこそこ美味しくなるんだよ」
嬉しそうにそう答えて、茶菓子に手を伸ばす玲。
今日は饅頭らしい。
躊躇なく齧り付く彼女を優しく眺め、白哉は自分の分を手に取った。
穏やかな時間が過ぎる。
白哉は決して口数が多い方ではない。
しかし、玲は彼の瞳に映る感情から、大体こんな事を思っているんだろうなと察してしまう。
それで、会話の様なものが成立してしまう異質な光景を、恋次は執務机から遠目に見ていた。
―朽木隊長が気にいるわけだ。
そんな風に納得しながら。
休憩を終えた後、暇を持て余した玲は、白哉の横で執務を手伝い。
あっという間に書類を片付け、次いでと言わんばかりに恋次の分まで終わらせてしまった。
「…お前ってさ…いや、やっぱいい」
最早彼女の出来ないことなど思い当たらなかった恋次は、突っ込むのを止めた。
何故、昨日入ったばかりの無所属死神が、隊長、副隊長の執務を手伝えるんだとか、幻覚なんて高等技術をどうやったら悪戯に使おうと思い至るのかとか、問い詰めたいことは沢山あるが、いかんせん白哉が怖すぎるのだ。
黙っておくことに越したことは無いと口を閉じた恋次は、そのまま白哉に昼食の調達を命じられ、隊主室を飛び出した。
「そっか。もうすぐお昼だね」
時計を見て思い出したのか、玲が独りごちる。
頷いて白哉が長椅子移動したので、玲も彼の隣に移動した。
「…明日は休暇でも取るか」
彼の呟きに、玲が顔を上げる。
「ん?お休みするの?」
「其方も必要な物があるだろう?」
「寝るときの浴衣、白哉の所の使用人さんから貰ったの一枚だけだから、替えは欲しいかな。後、出来れば髪留めも」
「ならば買いに行くか」
「本当?町に行けるの?」
嬉しそうに目を輝かせる玲を、白哉が優しく撫でる。
「あぁ。連れて行ってやろう」
「わぁ、ありがと、白哉」
嬉しさの余り玲が白哉に抱き着いた時、隊主室の扉が開く。
「はぁ…はぁ…隊長、昼飯…あ」
固まった恋次に首を傾げる玲と、絶対零度の視線を飛ばす白哉。
余りの殺気に逃げ出そうとする恋次を、
「縛道の九、撃」
言霊に呼応した赤い光が捕らえる。
「隊長!今の不可抗力…!」
「問答無用。蒼火墜」
番号すら破棄の破道が炸裂する前に、玲は恋次からお弁当を回収して、白哉の元に戻っていた。
「うおおおおぉお!?」
霊圧が極端に上がった彼の破道は、番号破棄でも十分な威力を発揮して。
なんの抵抗も出来ず黒焦げになった恋次に、玲は哀れみの視線を向ける。
「…お昼食べよっか」
「そうだな」
取り敢えずピクピクと痙攣している彼は生きている様なので放置して、昼食を摂る二人。
側から見れば鬼畜と噂されるに違いない光景だった。
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