Chapter11 〜化身〜






「え?昔話?」


宣言通り五番隊に戻ってきた私は、のんびりと書類整理を手伝いながら、桃に話を振っていた。

何か、気を紛らわせたかったのかもしれない。

昔の冬獅郎の話を幼馴染の口から聞くのも面白そうだと思ったのだ。

本当は身近な人の過去は殆ど情報として知っているけれど。

それは世界にとって大きな変化を写しただけのもので。

些細な日常の事まで知っている訳では無いから。


「潤林安にいる時は…シロちゃん前よりもっと小さくて、凄く生意気な、子供だったんだよ」


くすりと笑いながら話してくれる桃の昔話と共に、まるでスクリーンに射影されるかの様に、瞼の裏に映像が浮かぶ。

異質な髪と瞳の所為で、孤独だった彼の過去は。

幼馴染の彼女が語ると、少し明るいものに塗り替えられて。

情報って上書きされるんだと新たな事実を胸にしまって。

懐かしそうに語る桃の声に耳を傾ける。

彼女が子供扱いするからか、映像の中の冬獅郎は本当に生意気な只の子供で。

くすくすと笑っていると、外から冷気。

まずい、と桃の口を塞ぐより早く、隊主室の扉が勢いよく開かれて。


「雛森…!」


「わわっ!日番谷君!」


怒る冬獅郎と慌てる桃。

昔話とは立場が逆転している光景に、またくすりと笑う。

流石に幼馴染相手に氷輪丸の氷を生成することは無い冬獅郎を見て、私は傍観に徹した。


今や子供の頃の姿など見る影も無い彼と、小さな桃の口喧嘩は。

喧騒ではなく、小さな催しとして、この目に映ることに、少し不思議に思いながら。


最後の書類を書き上げ、印を押した私は、未だ言い合っている冬獅郎と桃を他所に、隊士達にそれを託した。

勿論、困惑顔を向けられたけれど、笑って誤魔化すと、頷いてくれたので良しとする。


「てめぇは、何で他人事なんだ!」


飛び火してきた話に首を傾げる。

流石に見ていて楽しいからなんて言えない。


「まぁ、冬獅郎。落ち着いて」


「俺は冷静だ」


その冷静な筈の冬獅郎に、腕を掴まれて担がれる。

どう見たって普通の光景じゃないはずだけど。


「冬獅郎?!ちょっと降ろし…」


私の言葉は最後まで言えなかった。

凄い勢いで景色が反転して、いつの間にか十番隊隊舎の、隊長格用の仮眠室の前に居たから。


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