Chapter13 〜神威〜





パラパラと書類を捲りながら、筆を動かし、一々借りに行くのも面倒だと思って以前複製した三、五、九番隊の隊長印を、躊躇うことなく押していく。

通せない書類は理由を書いて突き返し、他隊の承認も必要な物は隊士達に配布させ、上に提出するものは直接元流斎に持って行く。

一連の作業を四半刻程で終え、私は執務机から立ち上がった。

乱菊は今此処にはいない。

けれどそれは何時ものサボりではなく、卍解の修行の為。

市丸ギンの話をした後の彼女の修行への入れ込み様は尋常じゃなくて。

その意思の強さを認めた冬獅郎が、数日の非番を与えて彼女を修行に集中できる様に計らったのだ。

あの洞窟内では、私の力で具象化までは強制的に解放させる空間を創っている。

其処で今尚修行に打ち込んでいるのは、乱菊と修兵。

彼が非番を取っているツケは何故か私に回って来ていて。

最近は九番隊の仕事を午前中に終わらせて、午後に少し此処に顔を出し、後で白哉の顔を見に行く。

そんな生活を送っていた。


「玲。お前最近、何があった」


執務整理が終わり、お茶を飲んで一息吐いていると、冬獅郎が筆を止めて視線を上げる。


「何の話?」


首を傾げて彼を見遣る。

彼等に対して、特に態度を変えたわけじゃ無い。

今まで通り、眠る時は一緒に眠るし、特に触れる事を拒絶しているわけでも無い。

今まで通りの筈なのだけれど。


「氷輪丸」


「御意」


彼が刀の名を呼べば、蒼髪の青年は執務机に立て掛けてあった斬魄刀に戻り、室内は二人きりになる。

その状況に僅かに動揺する自分の心を諌める。

そうか。

動揺、してしまうんだ。

吹っ切れたつもりだったのに。

まだ。


「こっち見ろ」


目の前に来た彼の綺麗な翡翠の瞳を、真っ直ぐ見返す事が出来ない。

見透かされてしまうのでは無いかと、恐ろしくて。


「玲。俺が怖いのか」


彼の口から溢れた悲しげな言葉に、はっと目を見開いた。

拒絶される事を恐れて、相手を恐怖し、拒絶する。

それは、今私がしている事で。

翡翠の瞳が悲しげに揺らぐと胸が酷く締め付けられて。


「ごめん、なさい。私、弱くて。冬獅郎が、欲しい言葉一つ…言えない。まだ、終わって…ないから…」


以前よりずっと強い力で引き寄せられて。

強く、抱き締められる。


「馬鹿か。俺はお前に気持ちを押し付けるつもりはねぇよ」


「…うん」


「優し過ぎるのも、残酷だって事、分かってんのか」


「うん、そうだね…」


落ちて来る口付けは甘くて、優しかった。

それすら胸の痛みを生む。

このままじゃ、駄目なんだ。

全てを変えなきゃ、駄目、なんだ…。


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