Chapter14 〜仮初〜
あれから。
黒崎一護は消息を絶った。
玲は何か知っているんだろうが、何も言わねぇ。
だから下手に聞けねぇ。
そして今日。
彼奴が学校とやらに行きたいというから連れて行けば。
「あああぁああ!!其処な美男美女は数週間前公園で人目も気にせずイチャコラしてたあの時の!」
何か騒がしい奴に絡まれて、きょとんとしている玲の腕を引き、素通りしようとすれば、また絶叫。
「いやあぁああ!水色、俺こんな転校生認めない!絶対認めないんだからな!このバカップル!」
「はいはい、落ち着いてください浅野さん」
「敬語いやぁあああ!」
何やら耳慣れねぇ言葉を頭の中で変換してみるが、現世の人間が使う日本語と英語の混ざった言葉は理解し難い。
「玲、バカップルってなんだ?」
「…ん〜…恋人同士の熱愛を皮肉った言葉で、日本語の俗語…だって」
「つまり、恋仲って事か」
「まぁ、それで良いかな」
そんな会話をしていると、頭の痛そうな滅却師と目が合った。
「君達、此処で何してるんだ」
「何って、勉強しに」
さらりと答える玲に、滅却師はこめかみを抑えた。
「君達にこっちの授業なんて分かるのかい?!」
「変な俗語を使われなきゃ分かるだろ」
「…さっきの皮肉、根に持ってるのかい…」
がくりと肩を落とす滅却師を尻目に、井上織姫が嬉しそうに玲に話しかける。
直せつ的な関わりは今まで無かった筈だが…
あの女の口ぶりからして、朽木から何か聞いているんだろう。
ご機嫌よろしく玲の手を取り、教室に引きずり込んでいく井上。
此処に居るのは殆どが只の人間。
例外は死神代行の黒崎と此処に居る滅却師、それに玲と話している井上と、茶渡とかいうでかい男だけの筈だ。
その全員が面識もある上、信頼出来ないわけじゃない。
が…、気にかかるものは気にかかる。
適当に滅却師の会話を聞き流して、教室とやらに入ると、恐ろしく視線が痛かった。
陶酔にも似た妙な視線を受け流して、取り敢えず変な女に抱き着かれている玲を救出する。
「あ、冬獅郎。そう言えば、自己紹介?するから職員室に来てって女の人が…「あ〜お前ら席に着け。今日は転校生が…ってお前ら、何で先に教室来てるんだ?まぁいいか、こっち来い」
命令口調のその女に少し苛っとするも、現世はそういうところなのだと自分を諌める。
名前を書けと言われて、白い棒の様なものを渡されて、暗い緑色の板にさらさらと名を書く。
前に立つと殊更視線が痛いのだが、ふとそれが女のものである事と、無遠慮に隣の此奴を舐め回す様に見る男共の視線に気付いた。
放っておけば今日一日で何度襲われるか分かったものじゃ無い。
瀞霊廷では、皆が此奴の力を知ってるからこそ手を出す奴など殆ど居なかったが。
此処は俺自身の隊長権限も効かない場所。
ただ、名を告げて、宜しくねと微笑んだ玲に男共が気色の悪い声を上げた為、軽く殺気を飛ばして黙らせる。
「日番谷冬獅郎だ。此奴に手ぇ出したら殺す。覚えとけ」
がくがく震えて頷く野郎共は、取り敢えずもう心配は無さそうだ。
「冬獅郎っ可愛い!」
途端に抱き付いて来た玲を受け止めつつ、心外な言葉に反論する。
「誰がだ!」
「冬獅郎!」
「他所でやれぇええ!!!」
直後、浅野とか言う男の絶叫が、教室に響き渡っていた。
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