Chapter16 〜虚圏〜





変形を終えたゾマリは、手の内側にある目を白哉に向けた。

攻撃を予期した白哉は瞬歩で背後に回る。

然し何も起こらずに怪訝そうに眉を潜める。


「どうしました?攻撃が来ると予測したのに何も起こらない事が解せないと言いたげです。残念、起こっていますよ、既に」


ニヤリと十刃が笑う。

白哉の足には、奇妙な模様が浮かんでいた。


「その左足は私のものになりました」


「何だ、これは」


静かに白哉が呟くと、得意げにゾマリが語りだす。


「全てのものには支配権があります。部下は上官の支配下にあり、民衆は王の支配下にあり、雲は風の支配下にあり、月光は太陽の支配下にある。我が呪眼僧伽の能力は、その目で見つめたものの支配権を奪う能力。私はこの力を愛雨と呼んでいます」


十刃の語りに、白哉は訝しげに眉を寄せる。


「また解せないと言いたげだ。知恵が浅いと解せない事が多くてお辛いでしょう。然し、解せなくてもその身で味合えば解る。さぁ、左足を此方へ」


ゾマリの言葉に、白哉の左足が一人でに動く。

それを抑え込もうとするも、十刃が更に口を開く。


「抵抗は無意味です。貴方の支配は左足へは届かない。さぁ、もう一歩」


勝ち誇ったように手招くゾマリの言葉で、また左足が動く。

それに一瞬目を見開いた白哉は、自身の左足を斬魄刀で切った。


「ほう、咄嗟に左足の筋肉と腱を切りましたか。確かにそれでは動かせない。即断速攻素晴らしい。では、此方なら如何でしょう」


不敵に笑ったゾマリが、眠っているルキアに目を向ける。

それを見て瞬時にルキアの前に立ちはだかる白哉。

左手にまた紋が浮かぶ。


そこへ。


「白哉ぁ!どうして血塗れになってるの」


眉を顰めた玲が現れて、白哉がふと笑う。


「やはり来たか」


支配権を奪われた左手の筋肉と腱を切る。


「あ、馬鹿!切らなくたっていいじゃない」


「切らねば私の首を絞めていた」


「む…「下がっていろ、玲」」


「分かった」


だらりと下がった左手にを見て、十刃が目を細める。


「成る程、左足のみならず左手までも捨てましたか。支配権を奪われた対象を敵と見なし即座に切り捨てる。何とも凄まじい。自らに対し冷徹なまでの決断力だ。しかしその決断、私の目には些か軽断と映る」


自身の手を見つめ、ゾマリは言葉を続ける。


「貴方の四肢で残るのは右手右足のみ。十刃である私に対して片手片足で挑むのは如何にも驕りが過ぎる。そうは思いませんか」


「私と貴様ではその力の格は天と地ほども隔たっている。難儀な話だ。左手も捨てた、左足も捨てた。それでもまだ、貴様は対等には程遠い」


普通なら傲慢とも取れるその言葉。

しかし白哉は、抑えている霊圧すら解放していないのだから、彼にとってはその通りなのだ。

それに気付かない十刃は首を振る。


「残念です。貴方は私が思う以上に、己の力量を理解しておられない。一つお伝えし忘れていた事があります。私のこの目は、一つにつき一つの対象を支配するという事。先程私は、二つの目を使って愛雨を放ちました。つまり、貴方のその左手以外に、もう一つ、別のものを支配したという事」


白哉の目が見開かれる。

直ぐ様身を翻そうとする白哉。

しかし、それは玲の声によって止められた。


「大丈夫だよ、白哉。ルキアは大丈夫」


玲の腕の中には、穏やかな表情のルキア。

その身体に紋は刻まれていない。


「な、何だと?!貴様、何をした!」


「支配権を奪っただけだけど?」


しれっと答える玲に、ゾマリは冷や汗を伝せる。


「まさか、死神ごときに私の愛雨が真似できる筈が…「誰が死神だなんて言ったの?私は神。創世神。貴方に出来て、私に出来ない事なんてない」」


さっと顔を青ざめさせるゾマリの後ろで、白哉が静かに呟いた。


「支配、か。そんな物、私の前では何の意味も持たぬ。卍解、千本桜景厳」


斬魄刀が地面に吸い込まれ、巨大な刀が地面から現れる。

そしてそれが、桜色の刃となって散り、ゾマリの周囲を覆った。


「何だこれは…こんな物、我が全霊の愛雨で全て支配してくれる!!」


「止めておけ。一つの目につき一つの対象を支配すると言ったな。貴様の目の数はその両目も併せて五十。その高が五十の目で、天を覆う億の刃の、一体どれを支配するつもりだ」


絶望に顔を歪めた十刃が、手を突き出し、能力を発動する。


「くそぉ〜!我が意のままに動けぇ!我が意のままにぃ!」


しかし、数枚の刃がゾマリの側に寄るが、それだけ。


「吭景・千本桜景厳」


桜の刃が渦を巻いて、収縮する。


「刃の喉に飲まれて消えろ」


全方位からの刃のが渦を巻いて一度にゾマリに襲いかかる。

文字通り圧砕されたゾマリは、藍染様万斉と叫びながら消えていった。


「兄様!!」


玲に体温を戻してもらったルキアが、白哉の傷を見て心配そうに駆け寄る。


「白哉、もしかして私が飛び出してくるの待ってたりした?」


「ほう、ばれたか」


「ばれたか、じゃないの!その為に自分の手足捨てるなんて正気なの?」


出てきて直ぐに圧倒された十刃に、玲は溜息を吐きながら、白哉の手足を癒す。

その霊圧を感知したのか、冬獅郎までもが瞬歩でその場に駆け付ける。


「玲!」


「あ、ほら見つかっちゃったじゃない、白哉」


「見つかっちゃったじゃねぇ!今まで何処に居やがった!」


声を荒げる冬獅郎と、ふと笑う白哉。

自身の兄の珍しい表情を見て、呆然とするルキア。


「…終わったか」


ウルキオラまでもがその場に姿を現して、玲は溜息を吐く。


「ウルキオラ…ややこしくなるから、出て来ないでって言ったのに」


愚痴っぽくぼやく玲と、


「お前、あの時の」


ウルキオラを見て思い出したように呟く冬獅郎。


「…あれが其方に付いた破面か」


一連の流れで理解したらしい白哉の治療を終えて、玲がぽんと彼の口に薬を放り込む。


「増血剤だよ。あれだけ血流してたら回帰だけじゃ戻らないかもしれないから」


薬の苦さに眉を潜める白哉に、冬獅郎が氷でグラスを造って水を満たして手渡す。


「ほらよ」


それを黙って受け取る白哉は、相当飲み込みづらかったのだろう。

当然だ。

玲が意趣返しにわざと味の配合を変えたのだから。

その後、恋次の潰された臓器を治し、瓦礫に埋もれていた石田を救出し、倒れていた茶渡を回収し、織姫の部屋へ放り込んだのだった。


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