Chapter17 〜決戦〜





「愚かな事だ。私のこの力を目にしても、未だ卍解如きで立ち向かってくるとは」


「卍解如き…か。貴公は死神であったことも忘れたか」


「死神…死神など、元々私の求めていた存在ではない」


死神に惚れた女。

そして、死神に殺された女。

最愛の、女性。

東仙の心は、いつだってそこにある。


「東仙、いつからだ。いつからだ貴様は、この道を選んだのだ」


狛村は過去を思い出す。

獣の姿をしていても臆さず接してくれた東仙。

護廷隊に入った時も、護廷隊で働き始めた時も。

何時も明るく話しかけてくれた友。


黒縄天譴明王で傷を負った東仙が、超速再生するのを見て、狛村は悲しげに瞳を揺らした。


「本当に、死神を捨ててしまったのだな」


「今の状況でのその言葉は、負け惜しみに聞こえるぞ、狛村。堕落だと言ったな、友を騙し、部下を騙し、力を手にする事が堕落だと。ならば聞こう。復讐の為に組織に入った者が安寧たる暮らしにその目的を忘れ、組織に迎合することは堕落ではないのか」


その言葉に狛村が目を見開く。


「見えぬ私の目にはそのことの方が余程大きな堕落と映る」


「東仙、貴公が死神になった目的は」


「復讐だ」


星の光が消えないように、雲を払うといった彼女。

結婚して、死神になるのだといった彼女。

時々戻ってくる時に、話を聞いて欲しいのだといった彼女。

そして、それきり、戻ってこなかった彼女。

彼女を殺したのは夫。


「復讐…か」


「そうだ。ならば聞こう。狛村。お前は今まで一度も疑問に思わなかったのか。大切な友を殺された者が殺した敵と同じ組織に入る。その事をなぜ疑問に思わない」


「儂は正義の為だと…無き友の果たせなかった正義への思いを果たす為だと言う貴公を信じて…!」


「その通り、正義の為だ!ならば正義とはなんだ!愛する友を殺した者を許すことか。それは確かに善だろう!美しいことだ。目も当てられぬほどにな。だが善である事が即ち正義なのか?!違う。無き者の無念を晴らさず、安寧の内に生きながらえることは、悪だ!」


「…分かった。それが貴公の本心ならば、儂と貴公は相入れぬ」


「相入れぬならば私を斬るか。それも正義か」


「そうだ、正義だ。信念の元に相いれぬならば説得は由無し。儂は尸魂界の為に、貴公を斬らねばならぬ。斬りたくは無い…。しかし儂は貴公の本心を聞けて満足した。儂の心は、既に貴公を許している」


「既に許している、だと?神のような口を聞くな、狛村。私がいつ許せなどと言った!斬りたくば斬るがいい!この私の帰刃を目にしても、同じ言葉を吐けるならなぁ!!鈴虫百式、狂枷蟋蟀(グリジャル・グリージョ)」


黒い霊圧が広がる。

東仙の姿が、変わってゆく。

正しく、巨大な虫の化物へと。

呆然と立ち尽くす狛村に、東仙が嬉しそうに叫ぶ。


「見える、見えるぞ狛村!これが空か!これが地か!これが世界か!!そして…それがお前か、狛村。
思っていたより、醜いな」


狛村の目に動揺が走る。

見えざるからこその友情だったのかと、獣の瞳が揺らぐ。

玲はそれに、目を閉じた。


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