Chapter3 〜特別〜

ふぅっと息を吐いて立ち上がる玲を、引き留めるように声が漏れた。
「…玲」
「…何?」
半身で振り返った彼女は、何時ものように笑ってはいなくて。
何処と無く真っ直ぐな琥珀の瞳に、見つめられて困惑する。
「怒ってんのか」
何処と無く霊圧が不安定なのを見定めて問うと、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「どうして、私が怒るの?」
怒るところあった?とでも言いたげな瞳に、普通怒らないのか?の自問する。
「いや、朝…」
言い掛けて、やはりこんな所で言うべきではないと言葉を濁す俺に。
「ごめんね。今の私には、冬獅郎がどうしてあんな事するのか、あの行動の意味すら、分からないんだ…。
世界に聞いても教えてくれない。私にとって枷にしかならない物だからって」
枷にしか、ならない…か。
そうだ、此奴はこの世界の調停者として、世界に型作られた世界のカケラで。
確かに、其処に縛り付けられる類の感情など、唯の枷でしかない。
だから知る必要も無くて。
「…そう、か」
冷静に受け止めた筈の声が、酷く落胆した声音だったのは、自分でも分かった。
けれど、玲は此方に向き直って、切なげに目を細めた。
「でもね、私は知りたいよ。冬獅郎と居ると心地いいし、触れられると温かい。声を聞くと安心するし、もっと側に居たいって思う。ねぇ、これじゃ駄目かな?」
考えるより先に、引き寄せて、抱き締めていた。
此奴がどんな存在で、どんなにそれが難しいことだとしても。
理解しようと、知りたいと言ってくれる玲が酷く愛おしかった。
「駄目な訳、ねぇだろ…」
胸を締め付ける感情を抑えて、低い声で告げると、彼女は安堵したように微笑んだ。
「…うん、ありがと」
その微笑みに、どくんと心臓が高鳴って。
もう手遅れなんだと、自分に伝える。
わかっていた。
この感情がコントロール出来るのならとうにしている。
例え彼女が人とどれだけ違っていようと、それは最早妨げにすらならなくて。
泉のように湧き出る感情に、気付いたが最後、溺れてしまう他に選択肢など残ってはいない。
「待っててやるよ。何年でも」
言い聞かせるように、自分に刻み込むように、呟くと、玲の瞳が不安気に揺れた。
「…うん」
何を不安に思っているのかは何となく分かる。
魂魄ですら無い此奴が、いつまでこうして触れられる形を保って、笑顔を向けてくれるのか、そんなこと分かるはずも無い。
けれど、それでもいいと思えた。
諦めているのではない。
もしも彼女が消え去りそうになっても、自分にあるすべての力を使って止める。
此奴と共にあれるのなら、どんな犠牲を払ったって構わない。
そんな決意を胸に抱いて。
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