Chapter4 〜華奢〜





そのまま、連行される様に連れてこられたのは、少し敷居の高そうな料亭で。


「え?乱菊…?」


私は首を傾げて彼女を見遣る。

冬獅郎は何か気付いたらしく、眉間の皺を深くした。


「ほらほら、玲早く早く」


押し込まれる様に店に入ると、見覚えのある顔がちらほらと見えた。


「お、やっと来たねぇ。松本君、もう飲んじゃってるよ?」


そう、呑気な声音で話しかけてくるのは京楽隊長。


「こら、京楽。だから少し待とうと言ったじゃないか」


そんな彼を嗜める浮竹隊長。


「うわ、本気で日番谷隊長まで丸め込んできやがった。どんな手使ったんスか、乱菊さん」


酒瓶片手にこちらを見て喫驚を浮かべるのは恋次。


「…玲を先に口説いたに決まっておろう」


お猪口で静かにお酒を飲んでいるのは白哉。


「玲ちゃん、二日ぶりだね!」


そう可愛らしい笑顔で笑うのは桃。


「…昼間は悪かったな」


仏頂面で謝罪を述べる檜佐木修兵。


「始めまして。吉良イズルです。宜しく、瑞稀さん」


物腰柔らかく自己紹介する金髪金眼の三番隊副隊長。


「…松本。今日はやけに地獄蝶が飛んでたな」


「あはは…そうでしたっけ?」


冬獅郎の不機嫌そうな声と、乱菊の空笑。

何故か全てが現実ではなく現の夢の様な気がして、ぼうっとしていると。


「ほらほらぁ、主役がぼうっとしてちゃいけないでしょ〜」


ばさりと派手な羽織が翻って、京楽隊長に手を引かれ。


「昼間は大丈夫だったのかい?」


隊主室での惨劇を思い出したのか、浮竹隊長に心配される。


「私は何もしてませんから。それより、浮竹隊長お身体は良いんですか?」


「数日前に来た君にまで心配されると、少しへこむよ…」


言葉通り肩を落とす浮竹隊長にくすりと笑うと。


「私も、兄が来るとは思わなかったな」


隣で飲んでいた白哉が、ぽつりと零す。

彼の病気は情報としては知っている。

そして、今尚生きていられる理由も。

けれど、浮竹隊長はその事を誰にも教えていない様だった。

今度こっそり治しに行こうか、なんて考えていると。


「ほら、玲ちゃん。お酒飲めるかい?」


お猪口に入ったお酒を京楽隊長に渡される。


「…飲んだ事ないですね」


答えながら、受け取ったそれを口元に近付けると、つんとした酒気が鼻をついた。

恐る恐る舐めてみる私の隣に、


「無理に飲む必要ねぇぞ」


そんな事を言いながらどかりと冬獅郎が腰を下ろして。

乱菊は、と視線を走らせると、楽しそうに檜佐木と恋次にお酒を飲ませていた。

その隣で桃と吉良が和やかに会話している。

多分隊長ばかりだから近付き辛いんだろう。

ちらと此方に視線を向けた桃と目が合ったので、後で行く、と手で合図すると、嬉しそうに笑ってくれた。


さて、これどうしようか。

自分の現状に意識を戻した私は、静かに酒を飲む白哉と、未だ不機嫌な冬獅郎と、どうにか場を盛り上げようと頑張っている浮竹と、空気の読めない京楽に囲まれていて。


「あ、浮竹隊長。ルキアから何か報告ありました?」


だからと言って一気に酒を煽るなんて無茶も出来ない私は、一番会話が成立しそうな彼に話をふった。


「あぁ、また黒崎君のところにお世話になっているそうだ。そう言えば何か妙な霊圧がどうとか報告が上がっていたが、確証の得にくい記述ばかりでね」


苦笑を浮かべる浮竹に、白哉が独りごちるように呟いた。


「…執務能力を向上させる必要がありそうだな」


「あ、いや、朽木!そういう事ではなくてだな!」


必死に白哉に弁明を始めた浮竹を見て、もう駄目だなと悟る。
いつの間にか冬獅郎も日本酒を煽り始めていて。

そのペースに余程ストレスが溜まっているのかと心配になる。


「冬獅郎、お酒強いの?」


「別に弱くはねぇよ」


未だ機嫌が悪そうな彼と、これだけ人の多い場所で会話するのは不毛だ。

姿形で子供扱いはされなくなっても、周りに去勢を張る癖はまだ彼に根付いている。

それを理解した私は、くいっと手元のお猪口を空けると、


「ちょっと、あっち行ってくるね」


そう言い置いて、乱菊達の元へ足を向けた。



「…君も不器用だねぇ」


「…うるせぇよ」


逃げる様に消えた玲を見遣って、京楽が呆れ交じりの呟きや、日番谷の苛立ちの混ざった声は喧騒に消えた。


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