Chapter4 〜華奢〜





「あ、玲ちゃん!」


騒がしい方へと足を運ぶと、桃が気づいて寄って来てくれる。

視線を横にずらすと、檜佐木が真っ青な顔で突っ伏していた。


「冬獅郎機嫌悪いから置いてきちゃった。此処は和やかだねぇ。…約一名死にそうだけど」


「あはは。乱菊さんがちょっと暴走しちゃって」


桃の視線の先を見遣ると、今まさに一升瓶を口に突っ込まれている恋次が。


「…楽しそうだねぇ」


「うん、乱菊さんだけ、ね」


被害者が少し憐れに思えて、突っ伏している檜佐木の額を小突く。

序でに身体の酒気を飛ばしてやった。


「んぁ?なんか身体楽に…って、瑞稀?」


ぼんやりとした思考を懸命に働かせる檜佐木に小さく笑って、桃と一緒に席に着く。

すると乱菊が戻ってきて抱き締められた。


「うん、玲なら来てくれるって信じてた」


乱菊から伝わってくるのは純粋な好意で。


「一緒に飲もうって誘ってくれたもんね」


笑顔で答えながら腕を叩くと、気付いてすぐに開放してくれる。

けれど、乱菊に抱き着かれるのと、冬獅郎に抱き締められるの、なにか違うんだけど…どうしてなんだろ。

性別が、違うから?

ふと思考に沈みそうになるも、


「玲!何飲む?お酒って色んな種類があるのよ?」


お品書と書かれた紙を見せながら、乱菊は楽しそうにこちらを見る。

彼女は本当に、憎めない。

乱菊が楽しそうだと楽しくなるし、悲しそうだとどうにかしてあげたくなる。

決して子供扱いしてるとかそんなんじゃなくて。

あんまり元気だから、なんだか悩んでいる此方が馬鹿らしくなってしまう。


「飲み易いのがいいな」


「あっちは日本酒しかなかったんでしょ?隊長も気が利かないわよねぇ。甘いのがいい?」


彼方の席から、聞こえてるぞ、と言わんばかりに冬獅郎が睨みを利かせてきたけれど。


「うん、甘酸っぱくて匂いきつくないやつが良い」


気付かないふりをして乱菊に微笑むと、頷いた彼女は注文しに行ってくれた。


「あ、そう言えば桃。さっき乱菊が私が死神として認められたとかどうとか言ってたけど…知ってる?」


「え?本人なのに知らないの?!というか、この集まり、玲ちゃんの死神就任祝いだよ?」


「それも初耳」


「そっか…。総隊長が正式に許可出して、所属はまだ決まってないけど…玲ちゃん人の霊圧あげられるし、修行付けるのが上手いから出来れば見てもらえって、言われたよ?」


きょとんとしながらも教えてくれた桃に、元凶は元柳斎だったと発覚。

なら、昼に追い返した檜佐木には少し可哀想なことしたかも。


「…檜佐木修兵」


「…お前いきなり呼び捨てかよ…」


うんざりしたように酒を飲む彼に向き直る。


「それは良いの。総隊長に言われて来たなら追い返し方ちょっと辛辣過ぎたかなって」


「…俺の言い方も良くはなかったからな」


あくまで自身の非も認める様だ。


「そう?でも昼言ったことは事実だよ。もう一度ちゃんと向き合ってからおいでよ。そうすれば、何かしら考えてあげる」


「…向き合え、か…。なぁ、俺隊長と副隊長兼任してて、精霊通信の編集までやってんだけど。どうやったらそんな時間出来ると思う?」


酒を飲みながら愚痴交じりに呟いた檜佐木に少し同情する。

確かに、現在、隊長の抜けた三番隊、五番隊、九番隊は、副隊長が隊長職務まで兼任している。

九番隊はそれに加えて編集部もあるから、手が回らないのは目に見える。

今日だって恐らく乱菊に強く言われて断れなかったのだろう。


「仕方ないなぁ…」


半ば自棄になっている檜佐木が憐れで、私は小さくため息を吐いた。

掌に光を集めると、それは無数の玉の形を作り、後から作られた瓶に収められる。


「餞別。寝る前に飲んでみなさい」


「…なんだよ、これ?」


不思議そうに首を傾げる彼にその効果は教えない。


「飲めば分かるよ」


「…わかったよ」


怪訝そうな視線のまま、小瓶を懐に仕舞う檜佐木。

そこへ乱菊がグラスを持って戻ってきた。


「玲?これ飲んでみなさい」


受け取ったグラスの中身は、淡い桃色で。

口元に持って来ても、さっきの様な酒気は感じない。

こくりと一口飲むと、ふわりと甘い香りとともに、程よい酸味が口に広がった。


「わぁ、これ美味しい。ありがと、乱菊」


「良いのよ。今日はたくさん飲みましょ」


嬉しそうに笑う乱菊に何処と無く別の意図を感じたけれど、邪気では無さそうなので笑い返しておいた。


「それにしても君、本当に綺麗だよね。気を抜くと目が逸らせなくなるよ…」


唐突に吉良がそんな事を言い出して首を傾げる。

そこに乱菊が何言ってるのとでも言いたげな視線を向けた。


「当たり前じゃない!うちの隊長や朽木隊長までご執心なのよ?ここにちょっと色気なんて身に付けてみなさい。堕とせない男なんて居ないわよ!」


自分のことの様に豊満な胸をはる乱菊と。


「いや、乱菊?堕とすって…」


彼女の言葉の意味を今一理解出来ていない私。

それを側で聞いていた桃が、成る程と頷いた。


「よし、玲ちゃん、飲もう!そんでちょっと酔ってみよ?」


「そうよねぇ?雛森もそう思うわよね?」


二人は何かに好奇心を刺激されているかの様な表情で。


「おい、逃げるなら今のうちだぞ」


こそっと耳打ちしてきた檜佐木の声が何処と無く焦りを孕んでいた。

因みに恋次は、酔い潰れて床で目を回していた。


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