Chapter1 〜欠片〜

「日番谷隊長はいらっしゃいますか」
「あぁ」
彼が返事をすると、扉が開かれ、その場で一人の死神が膝をついた。
「瑞稀玲様のお部屋についてご報告でございます」
「…そうか。なんだ?」
「はっ!十番隊若しくは六番隊の隊長の部屋の近くならばどこでも良いとの事で…」
「あぁ分かった。ご苦労だったな」
「勿体無いお言葉。失礼いたします」
再び頭を下げたその死神さんは、言葉と共にすっと消えた。
「あんな人も居るんだね」
「…隊長副隊長の灰汁が強過ぎるだけだ。伝令はあれが普通だ」
そう答える冬獅郎は苦々しい表情をしていた。
「あ、隊長!」
声と共に飛び込んできたのは、金の髪と銀灰色の瞳のお姉さん。
冬獅郎に松本と呼ばれていた、ここの副隊長だった。
「わぁ…本当に大きくなってる〜!シロちゃんが…私の癒しが…」
松本さんの後ろからひょっこりと出てきた、髪をお団子にしている幼い感じの女の子が、冬獅郎を見るなりしゃがみこんで現実逃避を始めた。
「すみません、隊長。雛森に伝えたら、こんなことに…」
松本さんが申し訳なさそうに眉を下げる。
冬獅郎は…頭痛でもしたのだろうか。
こめかみに手を当てて盛大に溜息を吐いた。
「玲、すまねぇが、部屋、もうちょい待ってくれるか…」
その言葉に覇気は無い。
なんだか、表情には疲労が濃く現れていた。
「うん、良いけど…「その必要は無い」
再び乱入者。
視線をずらすと、中性的な顔立ちの綺麗な男の人。
「…朽木さん」
「え?朽木隊長?!」
「はわわ、すみません!」
松本さんと雛森さんが道を開けるために左右に飛び退いた。
「…なんだ、朽木…」
今にも溜息を零しそうな冬獅郎が、彼と睨み合う。
「兄に用は無い。私は玲に聞きたいことがある」
すっと冬獅郎から視線を逸らし、此方を向く朽木さん。
どうせ彼にはある程度話さなきゃいけないと思っていた私は、素直に頷いた。
「おい、其奴の部屋は十番隊舎用意させる。話が終わったら連れて来いよ」
「…もう陽も落ちた。今日は私の屋敷に泊まるといい」
「…えっと…?」
「馬鹿言うな!其奴今日初日だぞ?!」
「だからこそ、疲れも溜まっているだろう。何が不服だ」
なんか不毛な争いをしている冬獅郎と朽木さんに挟まれて、逃げ出したい衝動を必死に抑える私。
その様子を目をキラキラさせながら傍観する松本さん。
唖然としている雛森さん。
よし、あのなんだか楽しそうなお姉さんのとこに逃げよう。
心に決めて移動しようと身体を動かすと、朽木さんの腕がお腹に回って捕らえられた。
「え〜…」
不服そうに振り返ると、未だに睨み合う視線はそのままに、朽木さんは私を抱き上げる。
うん、自分の体が小さいことは理解してるけど。
片手で持ち上げられるのはちょっと傷付く。
「兄にはこの後、用事があるだろう?」
そう告げて、松本さんと雛森さんへちらりと視線を移す朽木さん。
完全に忘れていたらしい冬獅郎がそちらに視線を向けた途端。
朽木さんは瞬歩で執務室から消えた。
「…チッ…あの野郎…!」
冬獅郎が怒り心頭になったのは、霊圧の乱れで大体分かった。
戻れるわけもないので、取り敢えずまだ慣れない霊力が暴走しないように心の中で祈っておいた。
あ、防音の結界、消すの忘れた。
…まぁいっか。
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