Chapter1 〜淫呪
どくりと心の臓が喜びに脈打った。
私は思わず筆を取り落とした。
何故忘れていたのか。
こんなにも愛おしい存在を。
彼奴の霊圧を感じた瞬間、記憶が戻った。
ドンガラガシャンと騒々しい音を立てて、グリムジョーが執務室を飛び出す。
私もそれを追って部屋を出た。
そうすることを躊躇う余裕など今の私にはなかったのだ。
精霊邸を出て西流魂街の外れにある山へ瞬歩で駆ける。
当然のように日番谷とウルキオラ・シファー、他にも市丸やコヨーテ・スタークの姿もあった。
「…誰か報告に入ったか」
一応問うてみる。
誰もそんな余裕などないとわかっていながらも。
「そんなことをしている場合か」
ウルキオラが鉄面皮のまま答える。
グリムジョーは獣のように笑っていた。
「違いねぇ。彼奴だ。やっと帰ってきやがった!」
まるで母を待ちわびた子の様に、或いは獲物を見つけた飢えた獣の様に。
此奴らを先に行かせてはまずい気がして、私は瞬歩の速力を上げる。
呼んでいる。
霊圧で、自分はここにいると呼ぶ、愛しき者の元へと。
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泡沫U〈胡蝶蘭〉
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