Chapter1 〜淫呪




どくりと心の臓が喜びに脈打った。

私は思わず筆を取り落とした。

何故忘れていたのか。

こんなにも愛おしい存在を。

彼奴の霊圧を感じた瞬間、記憶が戻った。

ドンガラガシャンと騒々しい音を立てて、グリムジョーが執務室を飛び出す。

私もそれを追って部屋を出た。

そうすることを躊躇う余裕など今の私にはなかったのだ。

精霊邸を出て西流魂街の外れにある山へ瞬歩で駆ける。

当然のように日番谷とウルキオラ・シファー、他にも市丸やコヨーテ・スタークの姿もあった。


「…誰か報告に入ったか」


一応問うてみる。

誰もそんな余裕などないとわかっていながらも。


「そんなことをしている場合か」


ウルキオラが鉄面皮のまま答える。

グリムジョーは獣のように笑っていた。


「違いねぇ。彼奴だ。やっと帰ってきやがった!」


まるで母を待ちわびた子の様に、或いは獲物を見つけた飢えた獣の様に。

此奴らを先に行かせてはまずい気がして、私は瞬歩の速力を上げる。

呼んでいる。

霊圧で、自分はここにいると呼ぶ、愛しき者の元へと。


- 3 -


<*前><次#>


栞を挿む












泡沫U〈胡蝶蘭〉




Kuroageha








ALICE+