冬ハ苦シミニツトメテ
そこの場所は、いつも変わらない。時折花が手向けられているが、私以外の出入り主と言ったら森さんくらいだろう。この場所は、マフィア内でも知らない人が多い。
「…また来たよ、"納言"」
それが彼女の愛称だ。私が、勝手に決めて彼女は笑ってそれを認めた。ベッドへと近づくと点滴と、人工呼吸器がつけられたあの日から変わらない彼女がいた。長くなった綺麗な黒髪。それは、あの日からだいぶ時間が経っていることを指すのか。
「今日、森さんがまたエリス嬢にいじられてたんだ。相変わらずのロリコンでね。とても面白かったよ。」
話しかけても、返ってこない返事。浮かぶのは、彼女の笑顔だった。
_知ってる。
彼女は、二度と目を開けないかもしれないことを。二度と笑ってくれないかもしれないことを。二度と―。
「…なんでこうなっちゃったのかな。君はここにいるのに。どうして、喋ってくれないの?どうして、笑ってくれないの、ねぇ、納言。少納言っ、私は、君の声が聞きたいっ、」
頬を伝う涙が、彼女の手の甲へと落ちる。毎回、此処で泣く私を見たら彼女はどう反応するだろうか。
_『楽』
六年前、最下級層構成員の納言は、戦闘向きじゃなかった。どちらかというと救護班みたいな感じだった。彼女の異能力『枕草子』は内傷・外傷・病を分け隔てなく完治させる治癒能力だった。太宰と私と鳴野っちはその頃はもう幹部みたいなものだった。彼女とは、太宰と織田作のような関係だった。
二年前、彼女のいた救護班が何者かに襲われた。私が、駆けつけた時はぐちゃぐちゃになった遺体が散らばっていた。そのなかに死にかけた納言がいた。私は、彼女の異能力を使って彼女を治したはずだった。
_『…ごめ、んね…』
その言葉を最後に、彼女が目を覚ますことはなかった。異能力だったら太宰がなんとか出来たかもしれないかと思ってやった。でも効かなかった。以上はないはずなのに、眠っている。森さんは医学的には目覚めてもおかしくないと言った。なにか邪魔してるのかもしれないねとも言った。
「…また、来るね」
君が目覚めたら、私はみんなに会わせたい。君が、一番会いたがっていたから。
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