スペシャルマッチ

「オールスター、スペシャルマッチ?」
クロから研磨の家に集合がかかり、家に着くとカバンから嬉しそうに資料を取り出してきた。

「そそ、俺の企画。ついに通ったぜ!」
「へぇ、よかったね。」
「おめでと。
研磨、飲み物ちょーだい。」
「俺も取りいく」
「お前らっ!!!」
古い一軒家にクロの叫び声が響く。

ただ、私たちも知っている。
この顔は何か頼み事があるのだ。
そして、たぶん面倒なのだ。
だから、逃げたいのである。

「研磨、呼んでるよ。」
「えー、友香が聞いといてよ。」
「君たち、相手を目の前にして、あからさまな押し付け合いやめさなさいね。」
研磨が首を振るので、しぶしぶ元の席に戻る。

企画内容は、国・チームを問わず、世界のトッププレイヤーをかき集めて、スペシャルマッチを行うとのことだった。

「うちの会社に出資依頼?」
「あー、まぁ、お願いできますかね。」
「分かった。あとで書類見せて。」
「さすが!お話が早いですね。」
「…その営業口調やめて」
研磨がすごい嫌そうな顔で、クロをジッと睨んでた。

「…ウッス。
あと、コラボ企画もそれぞれのYouTubeチャンネルでやってくんねーかな?って。」
「じゃ、翔陽で。」
「私の方は夜久くんで。」
「なんで身近なとこで終わらせようとするかな!!」
机をパンパンと叩きながら、クロが訴えてくる。
身近じゃないよ、夜久くんは海の向こうだし、翔陽くんなんて地球の裏側にいるのだ。

「…まぁ、そっちはおいおい調整させてもらうとして、、
あと、友香を貸してほしい。」
「ん?」
「いいけど、何させるの?」
「社長、何するか聞いてから返事しましょう。」
身内だからと、気軽にOK出さないでください。

「スペシャルサポーターみたいな形で、友香を起用したいと思ってる。」
「えー!?なんで私!!?」
私そんな大勢の人がいるイベントで話したりとかしたことないけど…

「今回のイベント、妖怪世代を主軸にしようと思ってて、友香がピッタリだと思うんだよ。
バレー知ってるし、妖怪世代も詳しいし、何よりすごく可愛い!!」
「やだー!照れちゃう!」
クロのドヤ顔具合に、照れて肩をバシバシ叩く。

「…人の家でイチャつくのやめて。
まぁ、いいんじゃない。やってみれば?」
「社長のOKも出たし、引き受けさせていただきます」
「よろしくお願いします」
クロと握手を交わしたので、無事交渉成立。
大役を引き受けたことに、少しドキドキ。

***********
「しっ、失礼します!!!」
クロと打ち合わせの部屋で待っていると、部屋に谷っちゃんが入ってきた。

「谷っちゃーん!!!」
「ご無沙汰して、うぐっ!」
「元気?元気にしてたー!?久しぶりだねー!」
可愛い。本当にいつ見ても可愛い。
目に入れても平気なぐらい可愛いとは、たぶん谷っちゃんのことだと思う。

「友香、谷っちゃんが潰れかけてるから、離してやって。」
「あれ?ごめんねー、嬉しくって!」
「いえ!全然っス!私も久しぶりにお会いできて嬉しいです!!」
「谷っちゃーん!」
「いやー、それ見るのも久しぶりだなー」
谷っちゃんを抱きしめていると、後ろから東峰さんが入ってきた。

「旭くん、久しぶり。」
「うん、黒尾も三毛さんも、久しぶり。」
「お久しぶりです!」
それぞれが一旦席に座った。

「改めて、今回はオールスタースペシャルマッチへのご協力ありがとうございます。」
「「いえいえ。」」
謙遜の仕方が2人ともそっくりでウケる。

今日は、クロが谷っちゃん作成のイベントポスターの最終確認、
東峰さんが作成した私のイベント当日衣装の試着をする。

「では、さっそく。」
そう言って、東峰さんが取り出した衣装を持って、別室で着替える。

「お待たせしましたー!似合います?」
「うん、似合うと思うよ。
三毛さんは、サポーターだから、チームAとチームB両方のデザインを取り入れてみたんだ。
どうかな?」
「めっちゃ可愛いっす!
見る方向によって、チームAにも見えるし、チームBにも見えるってことですよね!?」
「そうそう。ちょっとこの辺は大きいかな?」
そう呟きながら、真剣な顔をして調節してくれる東峰さん。
相変わらず、ちょっと顔怖いな。
顔怖いし、腕もげそうなスパイク打ってくるけど、あの烏合の衆の中でいちばん優しい人だと、私は知っている。

「クロー!谷っちゃーん!ど?可愛い?」
「おぉー、いいじゃん!いいじゃん!!」
「素敵っす!とてもお似合いです!!」
「よし、谷っちゃん、色んなパターンで写真撮って。」
「はいっす!」
ビシッと敬礼をした谷っちゃんは、カメラを手にすると、写真を何枚も撮り始めた。
何かに使われるんだろうか、、

**********
2022年8月14日 大田区総合体育館
「おはようございまーす!
友香です!お願いしまーす!」
入口で、女性の協会の方が待ってくれていたので、挨拶をする。

「お、おはようございます!佐藤です!
ほ、ほ、ほ、本日はお願いしますっ!!」
視線があちこちに飛んでるし、ほ4回言ってるし、すごい緊張してる…

「なんか緊張してます?」
「あの、友香さんのファ、ファンですっ!いつも動画見てます!」
なるほど、視聴者の方でしたか。

「いつもありがとうございまーす!」
促されながら、建物の中に入る。

「あ、佐藤さん名前、アカウント名?教えてもらえますか?」
「あの、『ねこまる』で「えっ!?」
私の声にびっくりしたのか、佐藤さんの肩がかなり上がった。

「あ、ごめん、声大きかった。
めちゃめちゃ初期からの人じゃん!」
「え!覚えてくれてるんですか!?」
「あれでしょ?黒猫が丸くなった写真がアイコンの。」
「ですです!」
佐藤さんの目が思いっきり開いた状態で、こっちを見ている。

「会えたのちょー嬉しい!
本当にいつもコメントありがとね。
え、ちょ、」
佐藤さんと目が合ったかと思うと、泣き始めてしまい、さすがに慌てた。

「はい、泣かせたー」
声のする方に顔を向けると、笑いながらクロがやってきた。

「何言ったの?」
「いや、ちが、なにも。。え?」
「認知ざれでるなんでー、嬉じぐでー」
「ははっ!大号泣じゃん」
泣きながら理由を話す佐藤さんに、クロが笑う。
傷つけた訳ではなくて、ホッとした。

「んで、サインもらったの?」
「もらっでないでずー!」
「友香、サインしてやってくれねぇかな。これ?これに書いてもらうの?」
「いいよー。あ、これうちのブランドのじゃん。ありがとね。
アカウント名の方がいい?」
「はい!お願いします!!」

サインと日付も書いて、手渡す。
「はい、どうぞ。
いつもありがとう。これからもよろしくね。」
「はいー!!あり、ありがとうございます!!」
「じゃ、ここからの案内は俺するから、あっちの準備手伝ってやって。
あ、一旦顔洗ってからとかでいいから。」
「はい」
「またねー!」
「っっ!ありがとうございましたっ!」
音がしそうな勢いで頭を下げると佐藤さんは去っていった。

「では、こちらへどうぞ。」
「本日はお願いします。」
家で会ったばかりなのに、他人行儀なやりとりで、お互いに笑う。

「ファンってのは知ってたけど、まさかあそこまで熱烈だとは…」
「初期から見てくれてる人だし、コメントもほぼ毎回?してくれてるんじゃないかなー。
覚えてること伝えたら、泣いちゃった。」
「昨日から緊張してたからなー。」
確かに、最初もガチガチに緊張していた。

「こちらが控え室です。」
「はーい。」
部屋の中に入ると、メイクさんたちが何人かいた。

「じゃ、俺は1回外れるから。終わったら連絡して」
「はいはーい。
Vlog撮らせてもらうね。オープニングはセット出来たら撮る。」
「了解。」
手をひらひらと振って、クロは部屋から出ていった。

「今の人とは知り合い?」
馴染みのメイクさんに話しかけられた。

「あー、彼氏です」
「あの高身長イケメンか!!
『友香 深夜の手繋ぎデート!』ってやつ。
あれの動画好き。
『別に隠してない』って雑誌以上の情報バンバン出したやつ」
あったなー。イラついて撮った動画。
交際1年に減らされてたのが、ムカついて全部話した。

「やめてくださいよー。あれ未だに再生回数ぶっちぎりで恥ずかしいんですよ」
「でも、あれで女性ファン急増したんでしょ?」
「それはそう。」
おかげで、今日があるのかもしれない。。


**********
「どうもー友香です!
本日は私がサポーターを務めさせていただいた、オールスタースペシャルマッチのVlogをお届けしまーす!!」
今日1日だけで終わるなんて勿体ないから、ちゃんと記録で動画も撮ることになった。

「皆さんが好きなあの選手やこの選手が見れたり、、するかは分からないらしい。」
カメラを回してくれているクロが首を傾けたので、微妙な感じかもしれない。

「今ね、スタッフというか、私の彼氏が目の前に、というかカメラ回してくれてるんですけど、微妙そうな顔してます!
とりあえず、動画スタートです!見てねー」
ばいばーいと手を振る。

「これから色々紹介していこうかなーって思うんですけど、まず見て!
今日のために衣装作ってもらったの!
こっちがAチーム、こっちがBチーム。どっちも応援したいなってことで、このデザインにしていただきました!
ちゃーんと、ここには私の母校のカラーの赤入れてるよ。
夜久くん、トラのファンの方は真似してみてね。ただ、彼らはきっと気付きません。」
まぁ、気づかないでしょうね。
私が髪切ったって、なんだって気付かないというか、まず興味ないだろうからね。

「じゃ、さっそく中に行ってみましょう!
おぉー、大きな垂れ幕です!
日向選手と影山選手が対になってるのが、推しポイント。
私実はこれデザインした方とお友達なんです!!自慢です!
というかね、日向選手も影山選手もこれ作った子も、こんな大きくなって…みたいな気持ちになる。ね?」
クロに振ると、びっくりしながらもコクコクと頷いてくれる。

「彼もめっちゃ頷いております。
たまーに会うだけだったんだけど、やっぱ変人コンビには毎回驚かせてもらってきたんでね。今日もきっと湧かせてくれるでしょう!」
1度カメラを止める。

「急に振られると困るんですが?」
「1人で話し続けるには限りがあります」
「いつもやってることでしょーが!」
「まぁまぁ、別に映ってる訳じゃないんだから、いいじゃん。」
まったくもう、、と呟きながらも着いてきてくれる。

しばらく歩くと、窓からフードトラックが見えたので、またカメラを回す。
「お!外には徐々に観客が集まってきてます!そして、フードトラックもたくさんありますねー。
あ!おに宮あるじゃん!食べたーい」
赤葦くんにおすすめされて、関西に行った時に食べたことがある。

「え!うそ!!?」
クロが出てきたスマホの画面には『食べにいきましょう』の文字があった。

「カンぺで『食べに行こう』って出てきました。
えっ!?行っていいんだ!?
行こいこー」
会場を少し出て、外から見たおにぎり宮のトラックまで歩く。

「そう言えば、宮選手と双子だから彼も妖怪世代だよね。
もし烏野が負けてたら、宮ツインズとうちが当たってたよねー。勝てたと思う?」
クロはカメラを持つ手とは、反対の手で頭を抱えていた。

「あはは、非常に頭を抱えてます。
え、なになに?『やってみないと分からないと思います。』ですって。」
「いや、俺らやろ。」
フードトラックの前まで来ると、話が聞こえていたのか、治さんが話に入ってきた。

「あ!こんにちはー!
逆にすごい自信ですねー」
「根拠はあんまないけど、あんたらの試合は見とったからな。」
ゴミ捨て場の決戦この人たちも見てたのか。

「ほんで、何にしましょ?」
「えーっと、鮭とー、
え?時間的に1個しか無理なの?
そっかー、じゃ鮭だけお願いします。」
「ほんなら、鮭は今食べて、他はテイクアウトしてく?」
「え!いいんですか?じゃツナマヨと卵焼きください!」
「了解!ちょっと待っときー」
治さんは準備を始めた。
さすがに手際が良い。

「治さんの双子の兄弟、宮侑選手の試合での活躍も非常に楽しみですね。
元チームメイトの日向選手や角名選手、尾白選手との久々のコンビプレーも要注目ポイントです!
治さんから見てどうですか?」
「はしゃぎすぎて、たぶん自滅すると思うんで、試合終了までにミス減るかどうかやと思います。」
「あははー、辛辣ですね。」
めちゃめちゃボロクソに言われている。
兄弟とかなら、こんな感じなのかな?

「はい、準備できたでー!」
目の前にほかほかの鮭おにぎりが出てくる。

「ありがとうございます!
では、いただきます!
んーおいしいー!!
やっぱさお米かな?
自分で作るのとは、絶対違うんだよねー。」
「お!米の良さに気付いてくれた?
それ俺らの高校の先輩が作ってんねん。」
「そうなんですか!?
妖怪世代が広く活躍してますねー。
とても美味しいです!」
「ありがとう。
伝えとくわー」
「またお店も行かせてください!」
「いつでもどうぞ。」
治さんからテイクアウト分も受け取り、
お金を払って、フードトラックを後にした。

「私は今日この特別なパスを持っています。ということで、ついに裏側に潜入してきいたいと思います!」
選手たちのいるロッカールームへ向かう。

**********
「あぁー!」
ロッカールームの辺りに来ると、すぐ後ろから大きな声がした。

「おい、角名!友香やで!本物や!!」
「侑、恥ずかしい。」
宮侑選手と角名選手がいた。
双子コンプリートである。

「こんにちはー!
Vlog撮ってるんですけど、動画撮ってもいいですか?」
「ええよ、ええよ!」
「代わりにインスタの写真撮らせて。
ツーショットで。」
「もちろんですー!」
「なんでやねん!俺も入れろや!」
賑やか!一発目に関西勢は賑やかすぎたかもしれない。
カメラをクロに回してもらう。

「よっしゃ!お兄さんが再生回数増やしたろ!」
「いや、友香は俺らとタメだから。」
「嘘やん!!」
「はい。よくご存知ですね。」
「動画いつも見てますので。」
翔陽くんのおかげと、クロからの依頼でバレー関係多いしね。

「ありがとうございます。
ということは、宮選手には動画見ていただけてない感じですかね。」
「やってもうた…」
落ち込む宮選手の顔を、笑いながらバンバン写真撮る角名選手。

「角名選手、今日の意気込みなどありますか?」
「やっぱり国もチームの垣根を越えて、戦えるっていうのが楽しみです。
僕と侑みたいに今チーム違うけど、前は一緒にやってた。みたいな繋がりがあるのも楽しみです。」
「それ実はさっき治さんとも話してたんです!
ファンにとってはもちろん、当時のインターハイ、春高を見てきた人としても、超楽しみです。」
「僕らみたいな、ニアミスもありますしね。」
「え!どゆことや!?」
角名選手の一言に、落ち込んで小さくなっていた宮選手が反応する

「俺ら2年のとき、烏野に勝ってたら次当たったチームのマネさん。」
「ほんとに動画見ていただいてるんですね。ありがとうございます。」
「えぇー!!?めっちゃ守備上手いとこの!」
「ですです。本日チームBにリベロとエースがおりますので、お願いします。」
「楽しみやわー!!」
当時は実現しなかったマッチアップ。
楽しみだなー。

「じゃ、お2人の意気込みも聞けたところで写真撮りましょうか。」
「うん、ありがとう。侑撮って。」
「任せときー、ちゃうねん!俺も写りたいって!」
結局、角名選手のスマホのインカメで撮ることになった。

「あぁー!友香さん、黒尾さんもお久しぶりっす!」
2人と離れた直後にまた声をかけられた。

「翔陽くーん!元気?元気?」
「はい!ちょー元気っす!!」
「動画回してるんだけど、いい?」
「平気っす!及川さんも出ません?」
翔陽くんが声掛けるほうを見ると、アルゼンチンに帰化した及川選手がいた。

「噂のだいお、イケメンセッターにも出てもらえると嬉しいです」
「今『大王様』って言いかけたでしょ?」
翔陽くんが『大王様』って言うから、この人『大王様』でインプットしちゃってるんだよなー。

「あは、すみません。ぜひこちらへお願いします。
及川選手と日向選手は高校時代は同じ宮城の敵対するチームでしたよね?」
「ですです!」
「公式戦では1勝1敗だったよ。」
インターハイ予選は及川選手のチームが勝ち、春高予選は烏野が勝ち上がっていた。

「同じチームっていうのは、どうですか?違和感ありますか?」
「意外とないです!実はビーチで1回会ったんです!」
「翔陽くんが修行中のときってこと?」
「はい!俺財布失くしたときあって、そん時に救ってくれたのが、及川さんでした」
「さすが大王様!」
「大恩人ね!?」
さすが大王様、ツッコミもキレキレです。

「チームBには、お二人とも縁の深い影山選手を始め、宮城勢が数名いますが、いかがですか?」
「飛雄もウシワカも同時に倒せるチャンスだからね!楽しみだよ」
「うぉー!負けねぇー!!って感じっす!」
「ありがとうございます!
代表戦でも見れない、お二人のコンビプレー楽しみにしてます。」
ばいばいと手を振って、チームAのロッカーを後にする。

**********
「夜久くーん!」
チームBのロッカーにくると、
スーツにサングラスで決めてる夜久くんを発見した。

「おう!久しぶりだな!
友香なんでここいるんだよ。」
「あー!またちゃんと説明されてないでしょ!」
夜久くんはプロになって以降、海外にいるのに、特に説明しなくても時間があれば、駆け付けてくれる。

「私今日スペシャルサポーターやってるの。
衣装も皆と同じく東峰さんに作ってもらったんだー」
「いいじゃん、似合ってる」
「でしょでしょー」
褒められたので、ついつい細かい所も説明してしまう。

「夜久さん!!と黒尾さん、友香も!お久しぶりっす!」
ロッカールームのドアがばっと開いたかと思うと、高校時代モヒカンが出てきた。

「おう、元気か?」
「トラ早い!まだ私が夜久くんに構ってもらってるの!」
「声聞こえたら、挨拶に来るだろ」
「トラは別にあとで話せるじゃん!」
「お前らほんと相変わらずだな。
仲良くしろよー」
夜久くんに宥められ、無言の睨み合いの末、仕切り直すことにした。

「じゃ、2人ともこのカメラに向かって、意気込みをお願いします!」
「後ろに夜久さん居てくれると思うと、超心強いっす!今日はお願いします!」
「おう!俺も可愛い後輩たちの前で格好悪いとこ見せらんねぇからな。
どんなボールも拾ってやる。」
夜久くんかっこいい!!!

「あっ!!!」
今日イチ元気な声がして、振り向くと木兎さんがいた。

「木兎さん!お久しぶりです!
この間は動画出てくれて、ありがとうございました。」
「うん!また呼んでー!
あ、てか、今も撮ってんの?おれも映りたい!
でさーでさー、聞いてー」
ズンズンと歩いてくるので、とても距離が近い。
声大きいから別に聞こえてるのに…。

「この間メテオアタックに出てたマネージャーの子って、友香?
俺も出してください!って赤葦とウダイ先生に言ってんのに、まだ出てねぇんだよー」
「え?別になにも、、
あ!赤葦くんにこの間、先生が女の子のキャラデザに困ってるって言ってたかも…?」
この間、オンラインで遊んだ時に確かそんな感じの事を言っていた気がする。
写真提供しても良いか、聞かれたからOKって返事したけど、帰ったら確認してみよ。

「いいなぁー!俺も出てぇなぁー!!」
「木兎さんはきっとまだなんですよ!
主人公たちの最強のライバルとか、修行時期の師匠役とかですよ!」
「最強のライバル、、師匠!!
俺超かっこいい!最強じゃん!
今日赤葦と先生に聞いてみよ!」
余計なこと言ったかもしれない。
ごめん、赤葦くん。
心の中で謝罪しておく。

**********
イベント本番が近づいてきて、近くのスタッフさんがバタつき始めた。

「やばい、緊張してきた。
出た瞬間、シーンって冷めた感じになったらどうする?」
「んな訳ないだろ。
友香を発表したときのSNSの反響すごかったんだから、自信持ちなさい。」
クロは手を握りながら、励ましてくれる。

「友香さん!スタンバイお願いします!」
ついに、呼ばれてしまった。

「あ、はーい!お願いします。」
「友香、楽しんで。」
ゴミ捨て場で私がクロに最後に言った言葉。
「行ってくる!!」

**********
「みなさーん、こんにちはー!
本日進行を務めるアナウンサーの山田です。」
イベントがついに始まった。

「それでは、まず初めにこの方をお呼びしましょう!
拍手でお迎えください。
スペシャルサポーターの友香さんです!」
スタッフの方からマイクを受け取り、会場に走って出ていく。

「みなさーん!こんにちはー!
スペシャルサポーターの友香です!
本日は楽しんでいきましょう!」
たくさんの観客が拍手で出迎えてくれて、少しホッとする。

「上の方まで人たくさんですねー」
「そうですねー。もう、皆さんの熱気がすごいです!
皆さんに負けないぐらい私もワクワクしちゃってます!」
「本当にワクワクが止まりませんねー。
それでは、友香さん、さっそく今回のイベントについて教えてください」
「はい!今回のイベントはですねー」
リハーサルでやったように、イベントの説明をしていく。

「それでは皆さん、カメラと心の準備はいいですか?
選手のみなさんの登場です!!」
会場が暗くなり、映像が流れてくる。
かっこいいなぁー。

「いやー、友香さん、錚々たる面々が揃ってますが、いかがですか?」
「豪華!さすがに豪華すぎますね!!
これぞ、祭りじゃー!って感じです!」
「ほんとですね!それではお祭り始めていっちゃいましょう。
選手の皆さんはアップをお願いします」
アナウンサーの声で、みんながそれぞれの場所へ移動していく。
色んな場所から、選手たちを呼ぶ声が聞こえる。

「我々も移動しましょう」
選手たちを呼ぶ声の中に、自分を呼ぶ声が聞こえた。
そっちに手を振ると、女の子たちが「きゃー」と歓声をあげてくれた。

「いやー、選手達に友香さんの人気も劣らないですねー。」
「いえいえ、もし今日私目的で来てくれた人がいたら、ぜひバレーボールというスポーツにハマってもらえたら嬉しいですね。」
「そうですねー。
さきほど、数名の選手と言葉を交わされたとか。」
「はい!後日私のチャンネルで公開する予定のVlogの撮影をしてたときに、数名お会い出来たので、挨拶させていただきました。
皆さん『楽しみです』って言ってて、私たちファンだけでなく、選手の皆さんも楽しみにされていました。」
「そうですかぁ。
今、掲示板に出ているQRコードを読み込むと友香さんのチャンネルにいけるとのことなので、観客の皆様、チャンネル登録してお待ちください」
掲示板を見ると、私のチャンネルの宣伝広告が出ていた。

「なんかすみません、宣伝ありがとうございます!
バレーボール協会さん抜け目ないですねぇ。
終わったら、急いで編集しますね。」
「楽しみです。」
コートの方を見ると、スパイカー達がスパイク練習をしている。

「友香さんは、高校時代男子バレー部のマネージャーをされていたとか。」
「はい。春高にも連れて行ってもらいました。」
「では、元チームメイトの夜久選手、山本選手が楽しみですか?」
「夜久選手は素直に応援出来るんですけど、山本選手はなんか心配が勝ちますね。
あー、なんか睨んでるわ。
トラー!真面目にやれー!
『うるせぇ!』って言ってますね、あれは。」
マイクがないトラは反論できないのが悔しいのか、夜久くんが肩を叩いて宥めている。

「さすが3年間を共に過ごしただけあって、仲が良いですね。」
「え、今のやり取り見て、そんなこと思えます!?」
少し乾いた笑いで誤魔化されてしまった。

「チームAだと、日向選手は高校時代から何かしてくる!って印象があるので、楽しみですね。」
「素早い攻撃から、レシーブまでマルチなプレイが光る日向選手です。楽しみですねー。」
「あと角名選手は、さっきお話させてもらって、動画観ていると言ってもらったので、今日は逆に応援したいと思いました。
あ、宮選手は見てくれてないようなので、今日のVlogは見てくれると嬉しいです。」
角名選手はこちらに手を振る余裕を見せ、
宮選手はさっきと同じように崩れ落ちた。

「さっきも見ましたね、あれ。」
「2人も全国常連校の稲荷高校でプレーしてましたからね。
楽しみな組み合わせです。こういった繋がりが本当に多いですね。」
「同世代ですし、強豪校で当時から名前を馳せていた選手も多いですからね。」
もうすぐ始まる試合に胸が弾む。

「逆にあの時は出来なかったけど、みたいなマッチアップもあるんです。
例えば、及川選手って当時は無名なんて言われ方してますけど、及川選手含めて今日集まってる選手の4分の1が宮城出身なんです。」
「あ、そうですね。
及川選手は宮城県の青葉城西高校出身です。」
「牛島選手と五色選手がいた白鳥沢学園、日向選手と影山選手がいた烏野高校、及川選手がいた青葉城西、この中で全国に行くのは1校だけなんですよ?
宮城のレベルの高さが伺えますよね。
当時はライバルチームだった及川選手と日向選手が手を組んだり、それに対抗するのが影山選手と牛島選手や、当時春高に行った烏野と戦った選手たちになる訳です。
もし、彼がいたチームが勝ち上がっていたら?彼があのチームにいたら?みたいなのが見れちゃうのが今日なんです!」
「なるほど」
ついテンション上がって、話しすぎてしまった…。

「すみません、語りすぎましたね。」
「いえいえ、これからの試合の注目ポイントが増えるお話でした。
選手たちが1度ベンチに下がりました。」
選手たちが集まって、作戦を話し合っているのが見える。

スターティングメンバーがぞろぞろと並び出す。
「さぁ、お祭りが始まります!
では、友香さんお願いします。」
「はい!
オールスタースペシャルマッチ
"ザ・バレーボールマッチ"!!
試合開始です!!!」

**********
「つかれたぁー」
「おつかれ。」
控え室に戻ってきた私に、クロが冷たい水をくれる。

「疲れたけど、楽しかった!
なんかあっという間だったなー」
「盛り上げてくれて、ありがとな。
ほら、SNSも反響すごいぞー。」
「ほんと!?」
クロが見せてくれたスマホを除くと、私の名前でエゴサされた結果だった。

『友香のアップ中の解説で、試合の楽しみ増えた』
『アナウンサー、解説以上の情報をポンポン放り込む友香先生』
『最推し友香の動画で何かをやらかしたであろう推し…。Vlog楽しみすぎ』

「良かったー。話しすぎちゃったかなぁーって思ったんだよ〜。」
「さすがの視点でした。
また次があったらお願いします。」
「ぜひぜひお願いします!」
お互いに頭を下げて、笑いあうとノックがなった。

「2人ともお疲れ。
はい、差し入れ買ってきた。」
「けんまー、ありがとー」
受け取ろうとしたビニール袋をひょいと取り上げられた。

「それで、Vlog全部撮った?」
うわー社畜だ。ブラックだ。

「…まだ。」
「じゃ、撮り終わったらあげる」
研磨がニヤッとした顔で、見下ろしてくる。

「早く行かないと、選手たちも戻ってきちゃうんじゃない?」
「クロぉー」
「俺も一緒に行ってやるから。な?」
「うわーん!おにしゃちょー」
「いってらっしゃーい」
くぅー!ムカつく〜!

**********
クロに道中のカメラを回してもらう。

「ねー、聞いて!
『お疲れ様でしたー』ってスタッフさんに言ってもらって、さっき1回楽屋に戻ったのね?
そしたら、うちの社長が来たの!
でね、なんて言ったと思う?『Vlog全部撮った?』って。
私いっぱい喋って疲れたって言ってるの!
正論が1番腹立つときってあるよね。」
クロは苦笑しながら、カメラを回してくれている。

「あ、あぁー!!」
気を取り直して歩いていると、赤葦くんを見つけた。

「あぁ、久しぶり。こちらウダイ先生。」
「あ、初めまして。
赤葦くんは直で会うのは久しぶりだね。
Vlog回してるんだけど、撮っていい?」
「顔なしであればね。」
「ラジャ!
んじゃ、私だけ映すねー。」
クロは察したように、私の方にだけカメラを向ける。

「たまたま会ったので、カメラを回してみました!
顔出しなしなんですが、最近ついにアニメ化が決定した超人気漫画メテオアタックの作者ウダイ先生と、
私のゲーム友達兼、ウダイ先生の担当編集さんです!
今日の試合見られて、感想教えてもらえますか?」
「やっぱり生で見ると迫力がありますね。
コートの中は情報いっぱいで、漫画にも反映させたいなーと思う場面がいくつもありました。」
「おぉー!ぜひぜひ!
1読者として、楽しみにしてます!」
「ありがとうございます」
ウダイ先生がペコッと頭を下げるのに合わせて、慌てて頭を下げた。

「編集さんはどうでした?」
「そうですねー、選手たちのバックボーンを話すことで、観客を引き込んだところが良かったと思う。
ただ、実況の方が戸惑う程の情報量を叩きつけたのは、やりすぎかなと思いました。」
「…うん、それ私への感想だな。
そして、相変わらず手厳しいね。」
「改善していきましょう。」
やめて!傷口に塩を塗るような真似やめて!
てか、ウダイ先生ドン引きしてるから!

「あ、そうそう!
ちょうど聞きたかったことがあるんだけど、私に似てるキャラ?がメテオアタックいるの?」
「この間、『これ勝ったら、高校の時の写真、先生に渡すね』って言ったよ。」
「あー!やっぱりそれ?
さっき木兎さんに聞いてさー。
決まった時に言ってよねー。」
「えっ!?ちょ、ちゃんと許可は撮ってるって。。」
こいつー!ウダイ先生には何も言わなかったなー!?

「大丈夫です。俺が勝ったんで。」
「す、すみません!ご存知と聞いていたもので。」
「あ、使ってもらう分には全然良くて、むしろ嬉しいです!
ただ、罰ゲーム感覚で人の写真をばら撒く友達への文句です。」
そう言いながら、バシバシ赤葦くんを殴っておく。

「私に似たキャラクターがいるメテオアタックぜひ読んでねー。
いつか感想動画とかあげまーす!」
手だけ2人もひらひらと降ってくれる。

「あのー、友香さんを参考にさせてもらったキャラクター今後も登場させる機会あるんですが、大丈夫でしょうか?」
身長は私より高いが、猫背なのか少し小さく感じる先生が、さらに丸くなりながら伺うように尋ねてくる。

「あ、もう全然使ってください!
むしろ、これ使っちゃって大丈夫ですか?イメージ的に。」
「それは全然。木兎選手のように気付く方もいるでしょうし。」
「良かったです!では、ぜひ私のキャラ?ご贔屓にお願いします。」
またお互いにぺこりと頭を下げた。

「赤葦くん!報連相分かる?」
「別にダメな訳ではないでしょ?」
「私単行本派なの知ってるでしょ!
教えられる前に知りたかったのに!!」
「だから、本誌も買ってっていつも言ってるのに。」
まとまって読みたい派なだけなのに…。

2人と分かれて、会場を歩いていると、
翔陽くんと影山くんがいた。

「2人ともおつかれー」
「おつかれっす!」
「友香さん!おつかれっすー!
動画ですか?」
「そうそう、研磨に終わった後の様子も撮ってこいって追い出されちゃった。
疲れてるとこ、申し訳ないけど、少しだけ協力してもらっていい?」
「俺は全然!」
「俺も平気です」

クロにカメラを回してもらう。
「イベント終了後に会えました!
変人コンビこと、日向選手と、影山選手でーす!」
「チワッス!」「チワッス」
「2人とも相変わらず、大活躍でしたねー。」
「「あざっす!」」

「久々にネットを挟んでの対決になったと思いますが、いかがでしたか?」
「ちょー楽しかったです!
こいつ以外もみんな上手くて、ぐわーってなりました!」
「相変わらず、チョロチョロしてて邪魔だなーって感じでした」
「あはっ!素直!!」
このちょっとズレてる感じ、懐かしいなぁー。

「お前もっと良いこと言えよ!」
「そうだぞー」
後ろから声がすると思ったら、及川選手がいた。

「久々に及川さん見て、ビビったとか言えよ。」
「すげぇとは思ったけど、ビビってません。」
「せやろな、飛雄くんは俺にビビって、他所の国の人なんて、記憶にも残らんかったやろうしな。」
「いえ、ビビってません。」
おぉー、セッターがいっぱい…。

「あ、宮選手お疲れ様です。
スマホ持ってます?」
「持ってるけど…」
「じゃ、このQRコード読み込んでもらってー、
あ、そこのチャンネル登録を押してもらっていいですか?」
「あ、はい。押しました。
ってすごいなあんた!めちゃ押し売りしてくる」
「わー、チャンネル登録ありがとうございます!」
「良かったじゃん、侑。
友香さんのチャンネル女性人気高いし。
ほら、SNSで侑が何やらかしたか気になって、試合が記憶にないって人もいるよ。」
「なんでやねんっ!!」
角名選手が面白そうに、宮選手を煽りまくっている。

「お!友香!」
「夜久くん!おつかれー!!
あと、トラも」
「お前、アップ中に仕掛けてくんのはずるいだろ。」
「聞かれたこと答えただけだもん。
私嘘つけない。」
「それがもう嘘だろうがっ!
これまで散々余罪あるだろ!」
「ないですー!印象操作やめてくださーい」
「はいはい、2人ともそこまで!
よくそんなに揉める元気あるな、お前ら」
売られた喧嘩勝っただけだもん。
私悪くないもん。

「ほら、飯行くんだろ?
俺もシャワー浴びてくるから、さっさと片してこいって」
「はーい」
夜久くんに促されて、その場を離れた。

「エンディングどこで撮ろうかなー?」
「あの大弾幕のとこで良いんでない。
もう人もいないだろ。」
「分かった。じゃ、そこで。」

今日最初にいた垂れ幕のところに向かう。
スタッフの人達ももう疎らで少なかった。

「何分の動画になってるか、私も分からないですが、
ここまで観てくれて、ありがとうございました!
色んな方たちと話せたし、何より試合楽しかったですねぇー!!
バレーボール面白そうだなー。やってみたいな、試合見てみたいなーって思ってくれた方がいたら、嬉しいです!
では、また次回の動画で!ばいばーい」
よし!お仕事完了!!

「んー!やっと終わったー!
撮影付き合ってくれて、ありがとね…ってどした?」
楽屋に戻ろうと歩き出した私に対して、クロは止まったままだった。

「友香、ちょっとこっちおいで。」
「なにー、戻ろうよって、へ?」
クロに近づいていくと、急に片膝を立てる体勢になり、ポケットを漁っている。
え、これって、これってさ、嘘でしょ!?

「友香、今日全力で盛り上げてくれたのを見て、やっぱり俺には友香しかいないって、改めて思った。
友香、結婚してください。」
ずるい、こんなの涙が止まらない。

「よろしく、お願いします。」
クロの手に重ねた手も、返事した声も、緊張なのかよく分からない感情で震えていた

「よっしゃ!!!」
断る訳ないのに、クロは雄叫びのような声で叫んだ。
人がいないからか、すごく響く。

重ねた手は、クロに引かれて抱きしめられた形になった。

少し離れたとこで、パーンっと破裂音がした。
「おめでと。」
音のした方を見ると、研磨がゆっくり歩いていた。

「おめでとー!」
「おめでとうございまーす!!」
「えっ!?えっ!!?」

よく知った顔がゾロゾロと出てきて、さらに驚く。

「いやー、ちょっと話したら、見たいって奴が結構いてさ。」
「え!やだ!私まだめっちゃ泣いてるのにー」
「今隠れてるから良いでしょ、俺なんか今すげーカメラに映ってるんだから。」
「えっ!?撮ってんの!?」
ちらっと周りを伺うと、たしかにカメラを抱えた人が数名いる…。

「お宅の社長が、絶対に撮るって譲らねぇんだよ。
週刊誌に撮られたときのがバズったからって。」
「さいてー。絶対スピーチとかやらせてやる」
なんて従兄弟だ。結婚式は絶対パシってやろう!

「友香、感想は?」
「もちろん、最高!!」

全ての出会いと、
バレーボールに感謝を。

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