ほしくず


差し入れ:一期:ガエリオ[20161119]

開発本部は繁忙期を迎えていた。
グレイズに新たに換装する装備の開発期限が近いからだ。

サラは自身に与えられた研究室にてPCと向き合っていた。その指は流れるようなスピードで動いている。

一部修正が発生し、設計を見直しているところだ。手戻りするほど致命的ではないため、数値を見直すくらいでなんとかなる。それでも膨大な量にあたるが。他に影響が出ないか、変更点以外も確認しなければならないからだ。

夜も既に遅く、開発本部では彼女以外の技術者も数人残っていたが、他部署や他局では夜勤以外の人間は大多数が帰宅していた。

サラは今日、泊まるつもりでいる。帰るのが面倒だからだ。それに、ノっている今、きりが良いところまで進めておきたい。

彼女しかいない研究室に、誰かの訪問を告げる呼び出し音が鳴る。こんな時間に誰だろうといぶかしめば、ボードウィン家の長男が手元のモニターに映った。

「どうせ帰宅が面倒だとかで泊り込んで仕事するんじゃないかと思ってな。ほら、差し入れだ」

正解だ。ガエリオの予想は当たっている。
夕飯ろくに食べていないんだろう?と、いつものことだとばかりに得意そうな顔でガエリオは袋を差し出す。
袋からカゴを取り出し、蓋を開ければ美味しそうなサンドイッチが複数あり、サラのお腹が今気付いたとばかりにぐうと鳴った。

ライ麦パンにレタス、トマト、タマネギそして厚めに切ったローストビーフを挟み、ソースは細かく刻んだピクルスを和えた粒マスタードが絶品な一品に、人参を生地に練りこんだパンを使用したベジタブルサンド。こちらはアボガドや紫キャベツなどが使われている。チーズとブロッコリーを包み込むように焼いた厚焼き卵を挟んだサンドイッチも美味しい。こちらにはケチャップが合う。
デザートにはドライフルーツと苺のソースをふんだんに混ぜたクリームチーズのテリーヌ。こちらはスライスされたものをクラッカーに乗せて食べる。または、そのまま食べても十分美味しい。このテリーヌはサラの好物である。作り置きして仕事中の間食にすることもある。

一人分にしてはやけに多い。疑問に思いガエリオを見れば、俺も食べるからなと返された。

「こんな遅くに食べると太るんじゃない?ガエリオは休暇中でしょう?…つまり、貴方は家に帰って寝るだけ。私は仕事。…それとも、今から夜の運動にでも行くのかしら?相手はどこのご令嬢?」
「品のない言い方はやめろ!わざわざうちの者に作らせたんだぞ。もっと俺に感謝してもいいんじゃないか?」
「うん。そのことについては素直に感謝するわ。ありがとう。ボードウィン家の使用人さん」

こんな時間までお疲れ様、と、サラはボードウィン家の邸宅がある方向を見て感謝の言葉を述べた。目の前にいるガエリオにではなく。おい、と非難するような声が聞こえたが気のせいである。

こういうことはたまにある。サラが仕事で泊り込み、ガエリオがヴィーンゴールヴにいる時だ。
仕事中食べやすいようにと、手で簡単に食べられる物を差し入れしてくれる。わざわざこんな時間にも。

彼は意外とこの、たまに会うだけの幼馴染を大切にしてくれる。あまり会う機会のないサラのことを。
任務で飛び回る彼と、地球本部からあまり動かない彼女。所属する局も違う。彼なりに、サラとの交流を持とうとしてくれていた。

コーヒーくらいは出してやるかと、サラは数時間自分と一体化していた椅子から腰を上げた。
この研究室には簡易キッチンが備え付けられている。カフェインは仕事のお供である。もちろんお菓子も。
こうやって味にうるさい奴らが度々やってくるからか、研究室には上質な豆が常備されている。彼女自身もどうせ飲むなら美味いものが飲みたい。

まずは豆を挽くために、サラはミルへと手を伸ばした。
紅茶が良い、なんて意見は却下した。ここには無い。


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