ほしくず


日々:二期END後:火星[20170709]

「マクギリス・ファリド事件」と呼ばれる騒乱――ギャラルホルン内の政権争いの終結から数年後の世界で。
騒乱の渦中にいた者たちは、それぞれの進むべき道を行くなか、シエルは火星に身を寄せていた。
身分は居候。アトラの手伝いと、暁へ読み書きなどを教えることが主な仕事だ。また、二人のちょっとした護衛も兼ねている。三日月達が生きていた頃より治安は良くなっているともいえど、まだまだなのだ。火星が本当の意味で安心して暮らせる日は遠い。

「シエルー!もうすぐご飯だからほどほどにねー!」
「ん、わかった。…ほら、暁。今日はもう終わりだよ」
「…っは、やだ。まだできるよ!」
「だーめ。アトラを怒らせたいの?ほら、汗を拭いてきなさい」
「……わかった。明日は絶対に当ててみせるから」
「期待しないでまってる」

笑顔で手を振ってやれば、暁はムッとした顔をして、家の中に入った。
夕焼け色に染まる空の下で、シエルは暁に体術を教えていた。目的は基礎体力の向上と、自己防衛のためだ。シエルが強いと知って暁がシエルに頼んだからだ。強くなりたいらしい。二人の母親を守れるように。

二人のうちの一人、クーデリアは有名税でいつ誘拐や、政敵に危害を加えられる可能性があるし、実母であるアトラは、数年前までは子供といった容姿だったが、いまでは魅力的な女性に変貌した。街へ買出しに出て、男に声を掛けられたことも一度や二度ではない。暁は暁なりに、自分が強くならねばと感じたのだろう。

今は公にはできない鉄華団という組織名―――皆の心は鉄華団という家族の一員であることに変わりはない―――、当時、エースパイロットとして尽力した暁の父親――三日月・オーガスは、誰よりも強い男であったと。その三日月にそっくりな自分。暁にとって、何かしら感じるものがあるのだろう。

シエルは、そんな暁の考えに思うところはない。ただ、力はないよりは、あった方がよいと思っている。それに暁は愛しい。庇護欲を感じる子供だ。
マクギリス・ファリド事件後、次の行く先に、はて、と悩んでいた自分に、うちにおいでよと声を掛けてくれたアトラ。その子供だ。そして、もう会うことはできないだろう、同郷のガンダムパイロットである彼らと同じ強さを持った三日月の子供だ。暁自身も、父親に似て表情があまり変わらないが、素直で真っ直ぐな子供だ。これで愛しくないわけがない。

暖かな光を灯す家の中から、もう一度自分の名前を呼ぶ声に、シエルは今行くよと返事をした。


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