ほしくず


天使との戦い:二期:火星[20170108]

戦艦で待機していたジュリエッタ、ヴィダールそしてシエルの3人はラスタルからの通信を受け、火星へと降り立った。
目的は先行したイオク隊及び火星支部の状況、そして火星に眠るMAの調査だ。
調査は二手に分かれて行う。イオク達の降下地点に向かうジュリエッタと、火星支部を調査するヴィダールとシエルの班だ。組み分けは至極妥当といえる。

荒野を移動する2機のMSが見える。1機はグレイズリッター。マクギリス・ファリドの搭乗機だ。もう1機は不明だ。モニターにはUnknownとしか表示されない。外装は、データにあるヘルムヴィーゲという機体に似ているが、ギャラルホルンのデータベースに登録のないエイハブ・リアクター搭載機だ。
こちら側に気付いたUnknownの機体が、グレイズリッターを守るように大剣を構え前に出る。

「そこのモビルスーツ!所属と階級を答えよ!」

外部スピーカー越しに聞こえるUnknown機のパイロットの声。この声は聞いたことがある。ファリド公の腹心の部下―――確か、石動・カミーチェという男だ。その直後、ピピピっという音と共にVOICE ONLYの通信回線が開く。相手はジュリエッタだ。

「ヴィダール、シエル!あなた達は何をしているんですか。こちらはイオク様と合流したのですが…くっ、ええい!とっとと合流してください!」
「…わかった。そちらへ向かう」

数拍置いたのち、ヴィダールはジュリエッタへと答えた。
その言葉を聞いてジュリエッタはすぐに通信を切った。どうやらあちら側は逼迫した状態のようだ。シエルにも名指しで助けを求めるくらいなのだから。

ジュリエッタとのやりとりの中、待たされる形になった石動は焦れたように言葉を続けた。

「応答なきようなら実力行使に出る!」

どうやらこちらもあまり猶予はないようだ。シエルは通信回線が繋がっているヴィダールに声をかけた。

「ヴィダール。行くぞ」
「…ああ、だが少し待ってくれ」

言いたいことがある、と続けたヴィダールはコンソールを操作し、誰かへと語りかけた。―――いや、誰かではない。グレイズリッターのパイロット、マクギリス・ファリドだ。

「俺には分からない。自らへの愛を叫び散っていった、カルタ・イシューと同じ機体に乗る、その気持ちが」

淡々と語る口調に、相手の息を飲むような音が聞こえる。微かな音だがシエルの耳には拾うことができた。

「答えろ!…ならばこちらから!」

再び焦れた石動の声がヴィダールとシエルに届く。その言葉を聞いた直後、二人はバックステップで下がり、この場を離脱した。
待て!という声は無視をして。

しばらく移動した後、シエルはヴィダールへと話しかけた。

「先ほどの通信だが、私が聞いてもよかったのか?」
「ああ、回線を切らなかったのは俺だからな」

だから気にするな、とヴィダールは続けた。

「どうして切らなかった」
「珍しいな。お前が食い下がるなんて」
「…言いたくないのならば無理には聞かない」

別に深い意味はない。ただ、なぜだろうと疑問に思っただけだ。
通信を切ろうとしたシエルをヴィダールは引き止めた。

「なんとなく…だ。お前にも聞いて欲しかったのかもしれない。あの男の罪を」

そう言ってヴィダールは黙った。
シエルはそうか、とだけ返して今度こそ通信を切った。合流地点まではまだ距離がある。






合流地点には既にジュリエッタと、機体を破損させたイオクがいた。

「すまなかった。途中で足止めを」
「もういいです。それよりイオク様をお願いします」
「ジュリエッタ…っ」

己の名を呼ぶイオクの声を無視し、彼が乗るレギンレイズを天然の土壁に寄りかからせながらジュリエッタは言った。

「私はモビルアーマーを」
「そうか…!敵をとってくれるというのか!お前は、お前というやつは…っくぅ…うっ…!」
「行くなら早くした方がいい。鉄華団とファリド公に先を越される」
「私の誇りを預けるぞ!」
「イオク様うるさい!」

とんだ茶番だな、とシエルは冷静に三人の会話を聞いていた。実力もないくせに、なぜイオクという男はMSに乗っているのだろうか。シエルは不思議でならなかった。己の飼い主は何の思惑があってこの男を近くに置いているのだろうか。シエルが見たところ、今回の件では毒でしかない。
ああいけない、とシエルは頭を振る。あの夢を見始めてからどうやら少し感情的になっているようだ。ラスタルがイオクを側に置く意味など、自分が考えることではない。

「私がジュリエッタを追いかけよう」
「ああ、頼む」

今だ感涙に咽ぶイオクを尻目に、シエルはヴィダールにだけ声をかけジュリエッタを追いかけた。






「七星勲章は私の手でラスタル様のもとに!」

ジュリエッタは叫びながらワイヤーアンカーでMAの左腕を絡めとる。それを好機とばかりに石動が乗る機体――ヘルムヴィーゲ・リンカーが戦いを挑むも、長大な腕部により殴り飛ばされる。次いでジュリエッタのレギンレイズも。先に戦いを挑んだ2機の状況、そして想定を上回るMAの戦闘能力にマクギリスはスラスターを噴射し、後方に下がり距離を取るも一瞬で詰められグレイズリッターごと空へと打ち上げられる。お前も逃がさないとばかりに。あっという間の出来事であった。

―――強い!
シエルはコントロールレバーを強く握りなおした。瞬く間に3機のMSを思うままに弄ぶ圧倒的な強さ。これが天使の名を持つMA・ハシュマルの実力か。
眉間から目に向かってつと汗が伝う。己では勝てない、とシエルは瞬時に悟った。この機体――いくらシエル専用に改修した高出力・高機動特化のレギンレイズといえど、MAに勝る機動性はない。このままでは蹂躙されてしまうのがオチだろう。
ならば、とシエルは考える。勝てなくてもいい。負けない方法を。圧倒的に戦力の足りない今、撤退が最良の案だ。ジュリエッタだけならば自分が機体ごと抱えれば済む。幸いにも現在MAは向かってくる機体にしか反応していない。奴の注意が自分に向く前にこの場を離れる。ここで死ぬのはラスタルの政敵と、彼らと手を組む鉄華団のみ。
MAの頭部が光り、右腕をもがれた赤紫色のMSに向かってビームを放とうと動きを止める。―――今だ!

ジュリエッタ機の正面に一足飛びで寄ったシエルは、機体に触れる前に動きを止めた。ビームの方向が何者かの手によって変えられたからだ。
地面を這いずる赤紫色のMS――紫電を焼き殺すはずだった紫の光は誰もいない空へと直線を描いた。

「あの機体は…」

トリコロールカラーのMS。私はそれを知っている。
純白の翼を持つ機体を。


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