ほしくず


ジャスレイ(女)成り代わり_01:小話[20161203]

::名前が同じなだけの別人です
::ぼんきゅっぼんな美女を想像しながら読んでください
::アゴは割れていません
::名瀬は分かってやっている


ジャスレイは名瀬・タービンのことが嫌いだ。
テイワズに入ってまだ数年の、中堅に毛が生えた程度の男。十年以上の年月をマクマードの下で働き、尽くすジャスレイには到底及ばない。
だがマクマードの覚えめでたく、深く信頼された男。組織のナンバーツーである自分よりも。

名瀬は自分よりもマクマードに重宝されている。
余所から見ればテイワズの専務取締役であり、傘下企業のJPTトラスト代表を務めるジャスレイの方がよっぽど重宝されているだろう。マクマードからの信頼が厚いからこそ、重要なポジションに就いているといえる。しかし、当の本人であるジャスレイはそうは思っていなかった。

マクマードからの信頼を疑ったことはない。彼のために手足となって働くことがジャスレイの何よりの幸せだ。
けれど、ここ最近では名瀬の方が目をかけられている。これは彼女の気のせいではない。
そのことがジャスレイは気に入らない。嫌い、などという言葉では表せないほどに彼のことを疎んでいる。憎いといっても過言ではない。要は嫉妬だ。
彼女は名瀬に嫉妬していた。マクマードと親子の盃を交わした名瀬のことを。

「オヤジ!どうして!」
「落ち着くんだ、ジャスレイ」

歳星にあるマクマードの屋敷。家主の趣味が色濃く反映された彼の居室にて、最高級品種のマホガニーを使用した重厚な机にジャスレイは音を立てんばかりの勢いで両手をつき、マクマードに訴えていた。

鉄華団のことで彼女は荒れていた。先ほどの幹部会で名瀬からもたらされた話題に。
マクマードの決めたことに意を唱えるわけではない。何よりも敬愛する彼の判断だ。ただ、それが名瀬からもたらされたこと。そして、頭を下げて然るべきの新参者がトップであるマクマードに指示を仰がずに決めたこと。そのことが許せない。決して許してはならない。
火星の王だと?それが?ギャラルホルンとの繋がり?だからどうした?
体面を傷つけられた。テイワズという組織を。マクマードの顔に泥を塗った。たかが新参者ごときが。到底、許せるわけがない。

「あの火星のガキ共は指示を仰ぐべきオヤジのことを無視した!私はそれが許せない!オヤジは甘い!あんな糞ガキ共なんかに!」
「そんなに大声を出しては喉を痛めちまうぞ。まぁこれでも飲んで少しは落ち着け」
「オヤジの入れる茶は好きだけどもっ」
「ジャーン」
「っ、」

ジャスレイはぐっと言葉を飲み込んだ。マクマードは狡い。ジャンという愛称で呼ばれては。彼女は口をつぐむしかなかった。
マクマードが付けてくれた愛称。ジャスレイはその名で呼ばれるのに弱い。特にマクマード本人の口から。もっとも、愛称呼びを許すのはマクマードだけだ。他の奴が呼んだ場合は鉄拳制裁を下している。蹴ることは得意だ。特に男の下半身においては。

「ジャン。俺はあいつらは何かをやると思っている。今までにない、何かをな。そしてそれは必ずテイワズのためにもなる。お前の言葉ももっともだ。俺たちにとってメンツってものは何よりも大事だからな。だがあいつらはまだ子供だ。俺たちの世界に大人だ子供だなんてものはないが、まだまだ鉄華団は駆け出しのひよっこだ。今回のことについてはあいつらの姉貴分として大目に見てやってくれないか」
「オヤジ…」

お前の気持ちは分かっている、と頭をくしゃりと撫でられては、ジャスレイは折れるしかなかった。




燻る気持ちはあるが、マクマードがそこまで言うなら仕方がない。
ジャスレイは無理やり気持ちを切り替え、マクマードの居室を後にした。自分のすべきことをするために。テイワズのナンバーツーとしての。

美しく整えられた庭を横目に、ジャスレイは渡り廊下を歩く。
久しぶりにオヤジに撫でられた。頭を。
嬉しい気持ちが胸に灯る。顔がにやけそうになるのをとめられない。が、そんな幸せな気持ちも廊下の角を曲がるまでだ。
角を曲がった先に今一番見たくない男がいた。

「よお」

男の代名詞である白のスーツ、そして帽子。その男は右手で帽子のつばを持ち上げ、ジャスレイへと声をかけた。まるで気が置けない友人のように。
当然、ジャスレイは無視をした。今最も見たくない、むしろぐちゃぐちゃに潰してやりたい顔。しかもなんだその気軽さは。いつから自分達は友人になったというのだ。まるで十年来のといったふうの。ふざけるな。

男の存在を完全に無視し歩みを止めずに突き進めば、ぶつかる少し手前で男の方が避けた。

「えらく機嫌が悪いな」

無視。

「そんなに急いでどうした?」

無視だ無視。

「つれないなぁ、ジャン」

振り向きざまに足を出す。左足を軸にした後ろ回し蹴りだ。狙うは上段――顔面だ。
彼女の私憤が多分に含まれた蹴りは後一歩のところでひらりとかわされた。

「おっと!危ないな」
「チッ」

まるで親の敵を見るような鋭い目で睨めば、男――名瀬・タービンは肩をすくめた。

「次にその名で呼んだら殺す」
「ああ、肝に銘じておくさ」
「ふん」

と、鼻をひとつ鳴らし、ジャスレイは前に進みだそうとして――その動きをとめた。
後ろ髪を一房、男の指が掴んでいたからだ。

くるくると、名瀬の指は彼女の赤銅のように艶のある、暗い赤色に染まる髪をまるで幼い子供のような手つきで弄ぶ。
毛先を指に巻きつけるように優しく、甘く。

「レイ」

戯れのように唇を落とされた。髪に。

「っ、気安く私の髪に触れるな!」
「ああ、悪いな」

殺す殺す殺す―――!!
勢いよく男の手を振り払い、殺気を向けるも男は飄々とした態度で笑っている。ウインクが気持ち悪い。似合っていることが余計に。口先だけの謝罪もムカつく。これっぽっちも悪いと思っていないその態度が。
ギリギリと歯軋りでもしそうな顔で名瀬を睨めば、男は帽子のつばを指で軽く下ろし、おどけてみせた。
絶対に殺す。いつか必ず。鉄華団共々潰す。この世に一欠けらも残してやるものか。
ジャスレイは心に誓った。


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