ほしくず


イオクの姉:小話[20161230]

::イオクの姉
::マッキー達より2、3歳くらい年上
::クジャン家捏造


ヴィーンゴールヴにあるクジャン家の邸宅にて、イオクはまるで母親に捨てられそうな幼い子供のような心境で震えていた。顔色はひどく青ざめている。
大きな窓から暖かな陽光が差す部屋とは対照的に、イオクの体は冷え切っていた。

「イオク」

己の名を呼ぶ、たったひとりの姉の声に体が大きく震える。彼女が怖いのではない。彼女に見放されてしまうことが怖いのだ。敬愛するラスタルの信頼を失ってしまった以上に恐ろしい。姉に見限られることが。
イオクにとって彼女は姉であり母であり、そして道しるべだった。クジャン家当主としてあるべき姿の。目標だった。

幼い頃に母を失くしたイオクにとって、姉のサラはまるで母のような存在だった。姉と母の二つの役割、二つの愛にて自分を慈しみ、育ててくれた。父はイオクが成人前に病気で死んだ。まだ士官学校にて学んでいる最中だった。
クジャン家には、家督は男子が継ぐものという風習があった。長く続く系譜の中、男児に恵まれないこともある。その時は女児が当主を務めた。しかし、あくまでも繋ぎの当主。代理でしかない。
父亡き後、イオクが士官学校を卒業し、ラスタル率いるアリアンロッド艦隊に配属されてから数年経つまで、クジャン家の当主はサラが務めた。イオクが一人前の男となるまで彼女が家を率い、守ってくれたのだ。だというのに自分は―――!

ぱん、と大きな音が一つ、部屋に響く。皮膚と皮膚とが重なった音だ。それも勢い良く。
サラが叩いたのだ。イオクの頬を。

「イオク、あなたはクジャン家の当主です。正しく、強くあらねばなりません。この度の件については、クジャン家の家名に泥を塗ることとなりました」
「っ、はい」

泥とは火星での出来事を指す。火星に眠っていたMAの暴走、失った部下達、独断行動による被害の拡大。己の為に命を賭してくれた部下達のことを思うと今でも涙が出てくる。
厳しい糾弾にイオクは唇を強く噛む。決して泣くわけにはいかない。最愛の姉の前で。これ以上、情けない姿を見せるわけには。

毛足の長い絨毯を、ゆったりとしたスカートに包まれた姉の足が一歩、二歩と進む。目線を床に下げ俯くイオクの視界に、エメラルド色の長いスカートの裾と、同色の靴先が入る。
そっと、己の頬に白く長い指が伸ばされる。先ほど彼女自身が叩いた場所だ。手のひらで包み込むように、優しい動きでサラは赤くなった頬に触れる。イオクは叩かれて軽く熱を持つ自分の頬よりも、サラの手の方が心配だった。どこか痛めてはいないだろうか。

2、3撫でた後、両頬に手を添えられたイオクの顔がゆっくりと持ち上がる。視線が上がる。姉の双眸に映るイオクの顔は、ひどく情けない表情をしていた。

「イオク、あなたはクジャン家の当主なのです。当主として、そしてあなた自身の責任として、汚名を返上しなければなりません」
「はい」
「私はあなたならば必ず、クジャン家の名誉を挽回できると信じています」
「っはい」
「できますね」
「はいっ!必ず、私自身の手で名誉を挽回してみせます!」
「良い子ね。イオク」

頭をまるで子供だった頃のように撫でられる。柔らかな指先から与えられるその優しさに、イオクの目尻から堪えていた涙が一筋零れた。
ああ、大丈夫だ。自分はまだ姉に見限られていない。頬を張られたことが嬉しい。自分にはまだ叱られるだけの価値があるのだ。まだ、愛されているのだ。
イオクは姉から与えられる愛に、ゆっくりと目を閉じた。


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