ほしくず


本編IF:一期後の空白の時間_02:ガエリオ[20161127]

太平洋南部に浮かぶ島国。
年間を通して過ごしやすい温暖な気候の国で、ガエリオは大怪我を負ったその身を休めていた。
サラは休暇の合間に、そんな彼のもとへ赴いていた。

流石に休暇の度には顔を出せない。
世界中の海を移動する巨大人工浮島。その中に存在するギャラルホルン地球本部からは距離がある。
加えて、マクギリスのこともある。あまり頻繁に顔を出せばきっと怪しまれるだろう。普段とは違うサラの行動を。―――もしかしたらマクギリスのことだ。既に彼女の行動に勘付いているかもしれないが。

その国にはヴィーンゴールヴにあるヴァンドームの邸宅と比べればこじんまりとしているが、サラだけの屋敷がある。彼女の隠れ家の一つだ。

その屋敷は、彼女が趣味で企画・開発したゲームソフトの著作権料を元手に購入した。
他にもいくつか特許権の取得も。これらはギャラルホルンに入隊するまでに行ったことだ。もちろん士官学校時代も。
元々、愛娘を溺愛する父親に連れらて世界中を転々としていた身。当然、学校には行っていない。士官学校がサラにとって初めての学校だ。

勉強は専ら独学だ。前世の知識とかつてと同様の頭脳があるため、彼女にとってさして難しいことではない。もっとも、幼少期の数年は父親が雇った家庭教師に習っていたが。
あまりにも特出し、子供らしくないと思わせないためだ。
人に興味のないサラだが、無闇やたらと波風を立てる気はない。面倒であるし、人の感情がもたらす影響というものは理解している。時には理性より感情が優先されることもあるのだ。これは大多数の人間に当てはまる。

世界を股にかけて商売をする父親に連れられるということは移動も多く、また学校という、一日の4分の1程度の時間を拘束されることもない。要は暇――否、個人で使える時間がたっぷりとある。
そこで、並みの大人には手が余るオーバースペックの自作PCを相棒に、MSの開発ができないのならばとやりたい放題やった。結果、手元には屋敷の一つポンと買える金が貯まった。前世の記憶様々である。

ガエリオの世話には、彼女が私用で雇った医療スタッフをあてがっている。日常生活回りのことにはメイドを。雇った人数は併せて5人もいない。
皆、金さえ払えば金額に応じた仕事をこなす、プロフェッショナル達ばかりだ。
彼らには相応の対価を払えば、いかな問題のある人物とて詮索することなく、己が仕事を忠実に完遂してくれる。もちろん、その場で得た情報を外部に漏らすこともない。
公には生死不明とされた男の世話をするのに、これ以上の人材はいない。

目立つ外傷はナノマシンでほぼ完治している。
あとは痛めた筋と内臓、傷病中に衰えた体力、そして彼自身の気力の問題だ。
凪いだ瞳、というよりも虚無を映すがらんどうの双眸に、サラは彼が元の状態に戻るまで多くの時間を要すると思った。―――いや、本当に元の状態に戻れるのだろうか。それに、元の状態とは一体?

一度壊れたものが前と同じ状態に戻るのは容易ではない。特に、人であれば尚更だ。ガエリオは、次はどのような彼になるのだろうか。善に進むも悪に堕ちるも、全ては彼次第だ。

サラは自身のことを善ではないと思っている。自分さえ良よければという身勝手さを悪だとするなら、彼女は間違いなく悪だ。
手が届く範囲のものは健やかであればと思う気持ちはあるが、逆にそれ以外はどうでもよいと思っている。身近なものは彼女自身へと大なり小なり影響を及ぼすからだ。ある意味、自分のためともいえる。彼女自身の生活環境を保つための。

しかし、善悪とは立場によって変わる、酷く曖昧なものだ。まず、人間を善悪で分類すること自体がナンセンスだろう。――とは言いつつも、完全な悪に近い存在も、限りなく善に近い存在があることも知っている。それは人類に対しての、という前置きがつくが。

最近は前よりも食がすすんでいる。順調に回復している、とサラに報告するスタッフの話に耳を貸す。ただし、成人男性が一日に摂取すべき量の半分にも満たないと。

そうだろうな、とサラは思った。先ほどちらりと見たガエリオの様子から容易に想像できた。
生きる屍、といったところか。いや、多少なりとも自ら食事をとっているので、少しは生きる気はあるのか。それとも流されているだけ?

そよぐ風に揺れるカーテン。その奥にある窓から見える、豊かな緑と草花。
自然体の美しさを損ねない程度に人の手が入った、美しい庭を見ても虚空しか映さない瞳に、サラはつまらないなと思った。

だからそう、彼に、一つ、きっかけを与えてみようか。


戻る



MAIN

ALICE+