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「慧お姉さんのおにいさんってどんな人なの?」
歩美の言葉に、ぴくりと慧の肩が震えたのを、コナンは見た。
俯いた慧は変わらず無表情で、そこからは何を考えているのかよく分からない。
「私の兄は…とても、すごく、ものすごく、この上なく、…勝手な奴。いや、私も同じようなものだけど。あとは、仕事人間、社畜、自己犠牲バカ、いじわる」
突然つらつらと饒舌に兄への不満を吐き出し始める慧。
「…え?」
まずい所をつっついた。と言わんばかりに、子供たちは顔を見合わせた。
コナンも思わず顔をひきつらせる。
慧は気付かずに、その両拳を握りしめて続けた。
「中学の頃から自分の夢を追いかけて、ずっと諦めないで、私が行かないでって言ったって貫くくらい頑固で…私なんかじゃ到底追いつけないくらい完璧でかっこいい人」
慧の表情が、出会ってから初めて感情に歪んだ。
「降谷の姉ちゃんは、兄ちゃんのこと嫌いなのか?」
元太の問いかけに、ゆるゆると首を振って否定した慧。
「…ううん。大好き、尊敬してる」
「じゃあケンカでもしてんのか?」
「ケンカ…うん、ケンカして、兄はそのまま大学の寮に入っちゃって、それからずっとこのまま」
大分ぼやかして入るが、その兄の正体を知るコナンにはすべて理解出来た。つまり、警察官になって欲しくなかった慧と、夢を貫き通したかった彼女の兄は、兄が警察学校に入ってから公安に配属され連絡を絶ったことで、今までろくに会話をせずにケンカを続行しているというわけなのだ。なんて頑固な。さすが兄妹である。
「じゃあ慧お姉さんは、お兄さんのこと好きなのよね?仲直りしなきゃ!」
小さい子供には簡単なこと。
ただ単純に、ケンカをしたなら非を認めて相手に謝ればいいのだ。ごめんなさいと、一言。
それが出来ればどんなに楽だろうねと慧は苦笑した。
「さすがに三十路間近のオバサンともなると、そう簡単でもなくってさ。…ありがとうね、話を聞いてくれて。ちょっとスッキリしたよ。じゃあ、そろそろ行くね」
子供たちに微笑みかけ、慧は立ち上がるとひらりと手を振って公園から去っていく。
兄相手にもこれだけ素直に話していたのなら、この歳までケンカを拗らせることなど無かったのではないかとコナンは思った。
それよりも。
「……、三十路間近、ってねぇ…」
血の繋がりの恐ろしさを見た。一体どんな童顔DNAだ。
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