「…知らなーい」
悟が同行しての呪霊討伐。なぜか私たちは箱状の狭い空間に詰め込まれていて。狭い上に天井も低い。向かい合って私が悟に乗っかるような形で閉じ込められている。密着度が半端なくて、すぐそこに悟の顔があって、体の匂い、ごくりと唾を飲んだ。
「簡易領域かな。面倒だね」
「なんか条件クリアしないと出られないってこと?」
「多分」
やられたね。悟のため息が私の顔にかかる。うわ、なんか生暖かい。
討伐の依頼があったのは昨日。ここ最近で行方不明者が続出。けどその人たちは数日で発見され命に別状どころかケガすらない。ということで、時間差でくる術式の可能性も踏まえ調査に行けとの指示。いずれも男女のペアがいなくなっている、ということで駆り出されたのが私と悟。安否はどうあれ行方不明者が多かったのでわざわざお忙しい特級様も馳せ参じたわけだ。
「ねえ」
「なに」
「行方不明になってた男女って、みんなめっちゃくちゃにラブラブになって出てきたらしいよ」
「それが」
「なんかえっちなことでもさせてんじゃない?」
「…。」
「何か言ってよ」
また大きなため息が私の顔にかかる。自分がいながらこんな訳分からない領域に閉じ込められてイラついているのだろうか。
私は決して断じて重くはないんだけど少しばかり体重を気にして悟の体にのしかかることはしなかったんだけどいい加減体勢がキツくて悟にもたれかかる。ぴったりくっつくと悟の匂いがより強なって、体はあったかくて、下腹部のあたりがむずむずした。
「ちょっと、重いよ」
「体勢キツいんだって。あと重くないもん」
こんなにぴったりくっついたのはいつぶりだろう。悟の血を直飲みしてる時はこんなもんな気がしたけど、久々にこうすると食欲も性欲もそそるなあ。直飲みを禁止されてから、2ヶ月ほど経っただろうか。よく我慢してると思う。今もこのムカつくくらい綺麗な肌に歯を立てたくて少しソワソワしてるほどだけど、悟はこんなに可愛い女の子が密着してるのに涼しい顔。私のことは女性としては見ていないという現実。少しばかりショックである。
「ねえ悟」
「なにー」
「私おっぱいおっきくなったよね?」
「…何言ってんの」
「いや今当ててるんだけどさあ」
「当てるなよ気持ち悪い」
「きっ!」
気持ち悪い。って。JKにおっぱい押し付けられて気持ち悪いってある?みんな嬉しいんじゃないの?かなりショックを受けてしまって静かに悟から離れる。大きく開かれた悟の脚の間に腰を下ろし、悟とは逆の壁に背中をつけて、両膝抱えてダンゴムシのように丸まった。
気持ち悪いなんてよくもそんなことが言えたものだ。「僕も男なんだよ?」的な展開を少しばかり期待した自分も呪ってやりたい。
でもダンゴムシになっててもこの現状は打破できない。でも簡易領域は単純だ。今は不可侵を強制されて攻撃もできない。求めている条件さえ分かれば、すぐに出られるのだ。だけどその条件がイマイチ分からない。ここに閉じ込められる前、何かきっかけがあったはずだけど、あっという間に閉じ込められちゃったから分からないんだよなあ。
「やばい、お腹すいてきた」
「直飲みしたいだけじゃないの?」
「ぎく」
「ぎく。を声に出す人初めて見た。ていうかさっきちゃんと任務前の血飲んでたでしょ」
「んー、でも、なんていうか、変な感じする」
「変?」
「ムラムラ…?」
目隠しにしている包帯の向こう側の目が、ぴくりと動いた気がした。気の所為だったのかもしれない。気がした、というだけで、悟の顔は相変らず涼しげだ。
「やっぱりさ、行方不明の人たち、カップルとかでしょ?なんか変な術式使ってムラムラさせて一発ヤラせてたんじゃない?」
三大欲求のうちの、性欲。それは紛れもなく人の感情を動かすもの。もちろん、人と人との行為だから、そこには負のエネルギーが生まれやすい。呪いと化してもなんらおかしくないものだ。
「悟はなんともない?」
「僕は平気だよ」
「…そっかあ」
「残念そうにするなよ」
「え、そんな顔出てた?」
「めちゃくちゃね」
僕のこと好きねえ。と呆れたように言われたけど、私の悟に対する感情が恋愛感情と呼ばれるものなのかは分からない。私のことを一番大事に思って欲しい。そういうことは思う。でも別に悟にだけじゃない。私の周りのみんな、私のこと一番好きならいいのにって思ってる。取り分け悟はこのルックス。この男はどんなセックスをするのだろうかと、まだ経験のない私は動画で見たアダルトビデオの男と悟を比べているんだ。
でも確かに、抱いて欲しいと思うのは、好きっていう感情の派生なんだろうか。
「悟のこと好き」
「…は?」
「え?」
声に出せば、自覚も出てくるんだろうかと思って声に出しただけなんだけど、悟の顔がなんかビックリしている。いや目が見えないから本当にビックリしているのかは分からないんだけど、とにかく、口が半開きになって、少し間抜けな顔になっているのだ。私が悟に好意を寄せていると自分で勝手に思ってるのにいざ告白をされたら動揺しちゃうの?そんなことある?そりゃあ、こんな事、面と向かって言ったのは私だって初めてだけど。
「え、なに」
「そっちこそいきなり何言ってんの?」
「あっれ、ドキドキしちゃった?」
「寧々子みたいなガキにしないよ」
「ガキじゃないよ。真希ちゃんには負けるけどおっぱい結構おっきいし」
「女の魅力はそこじゃないよ」
へえ。悟はどうやらおしり派らしい。大きい派かな。小さい派かな。それによって色仕掛けが成功するかどうかが決まりそうだ。
「でもここから出れないのやばくない?どうすんの?この私のムラムラは」
「寧々子いっつもムラムラしてるからいいんじゃない?」
「いつもしてないよ!今日は悟が近いから匂いが強くてちょっとえっちな気分になっちゃうの!!」
「なんだそれ」
もういいからとりあえずこっち来て。と悟が手招きする。え、なに、突然何。この話の流れだからOKサインかと思って心臓がドクンと大きく脈打った。
「え、え、」
「早く」
「うわっ」
狼狽えてる私に痺れを切らした悟が私の腕を強く引く。抵抗もしなかった私の体はいとも簡単に悟の胸の中。やばい、今から始まっちゃうの?きっと心臓の音が悟に伝わっている。バクバクとうるさいくらいに騒がしいから。
「離れないでね」
「う、うん?」
悟が、目隠しの包帯をゆっくりと外していく。碧い瞳。いつ見ても、綺麗で、吸い込まれそうで、とってもおいしそうな目。
そして包帯を外した手は、私の髪を撫で、そして…。ということは全くなく。
「領域展開。無量空処」
印を組んだ手を見て、ああ〜そういうことか〜。と一気に萎えた。もうムラムラしてない。
要するに、簡易領域を領域展開で相殺。悟の無量空処に勝てる領域なんて存在しない。
またたきをした瞬間にはもうあの狭苦しい空間はなくなっていた。
「…これで済むなら早くやってよ!!」
「これで出れるか分かんなかったし」
「もおおお」
悟の胸をドカンと叩いてやろうかと拳を振り上げたけどそれも無下限で攻撃は届かない。ますますムカつく。
「あっれ、ドキドキしちゃった?」
「…!」
ニヤリと私を小馬鹿にしたような笑顔。それはさっき私が悟に言ったセリフ。まさかカウンターを食らうとは。しかも図星で恥ずかしくて、きっと顔も真っ赤になってる。
「やっ、夜蛾に悟にセクハラされたって言ってやる!!」
「え、それはやめて。ねえごめん、ほんと」
本当に困った顔をしている。夜蛾怖いもんね。実際おっぱい当てたりセクハラしてるのは私の方なので許しておこう。
かくしてこのよく分からない呪霊祓除は悟の無量空処で瞬殺だったわけだけど、悟にくっついたり、少しばかりおいしい任務るだったかもしれない。帰ったら一人でしよ。
簡易領域のご都合解釈。あんまり理解してないんだけど、シン・陰流以外にも簡易領域あるんだよね?口裂け女も使ってたもんね?
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