2ヵ月半



庭にシロツメクサがたくさん咲いた。
何もすることのない私は無邪気な幼子のようにそこに座り込んで花冠を編み込んでいく。
完成すれば、少しの達成感とその喜びを誰にも共有できない虚しさが残った。できた花冠を撫でて思うはあの人。
よく来てくださったあの人は最近現れない。
 お仕事で忙しいのかしら。
どこか怪我でも、命にかかわるような…
ああ、それとも私の『臭い』が彼を誘き寄せていただけなのかもしれない。

怪我の心配までした後に出てくるのは私の醜い自嘲だけ。
結局傷つくのが怖いのだ。

「蓮花さん、今よろしくて」
 山本シナさんがふすま越しに私を呼ぶ。
「はい、今行きます」
 私が出れるのは山本さんの時だけ。その山本さんも私の部屋には入らない。一定の距離を保って関わっていく。

ここの人たちは何も教えてくれない。
私が生きるために必要な教養全て。何も。
 それでも私は火のつけ方を覚えた。
 着物の着付け方を覚えた。
損得勘定や町の相場を覚えた。
世の中の動きが少しだけわかるようになった。

すべて雑渡さんから教わったこと。学んだこと。
どうしてこの学園が私に何も教えてくれないのか、誰も接しようとしないのか。
それも雑渡さんから聞き知り、納得した。
だから私は何も言わない。何も知らないふりをする。

「悲しいとは思わないのかい」
ありきたりの言葉でありきたりに思う気持ちを問われた。
「私は殺されるのでしょうか」
「3か月もしたらね」
「雑渡さん、」
「なんだい」
「雑渡さんは私の匂いでここにきているのでしょうか」
「かもね」
「だったら私にこの世界の常識を教えてくださいませんか」
「どうして」
「図々しくてごめんなさい。断っても、いいんです。私には運がなかったとあきらめることができる。だけど、可能性がある限り私ha
生きたいのです。この世界を見てみたい」
「きれいなものではないよ」
「私の世界もですよ。けれどきっと懸命に生きる一日一日はとても美しいに違いありません。私は生きたいのです、雑渡さん」
「…まいったね。私は曲者なのだけど」
「曲者だからこそ、ここのルールに縛られない。私にはあなたが必要なのです。そしてあわよくば、いつか私が殺される日が来たら町まで出してください」
「君って存外強かだよね」

 部屋に戻れば置いてあった花冠はなく。
代わりにあるのは四葉のクローバーがひとつ。

「もう、行ってしまったのね」
 寂しさよりも喜びが胸を占めるのは私があの人に溺れている証拠。
「押し花にしよう」
 どちらに転ぶかわからない結末の中、私を支えてもらえるように。
あの人は私を強かと称したけれど。
あなたが来なければ私は死を待っていたでしょうね

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