「疲れは取れたかな?」

「寝起きの君はいつも以上に無防備で愛らしいね。寝顔もご馳走様」
「……いやいやそうじゃないですよね!?寝坊で言い訳出来ないレベルの時間なのですが!」
「時間になっても来ない君を心配して見に来た職員に事情を話したら午後からで支障はないと言ってもらえたからね。昨夜遅くまで起きていたし、体調が万全でない時のレイシフトって怖くないかい?」
マーリンのご最もな意見を前に呻き声すら返せず、シーツを頭から被りそこから伺い見ている梓を花の魔術師は見つめ返しながら淡く微笑んでいる。
寝坊で言い訳出来ない時間とは言ったものの、時刻からすればもう一眠り……二度寝をしても許されそうな時刻ではある。
お腹が空いていないと言えば嘘になるけれど、それ以上に今も体内から消え去っていない疲労と眠気が勝っていた。

自然と落ちてくる瞼に抗う事が出来ず、パジャマ姿で再度ベッドに潜り込みシーツを被ると背後からシーツとは異なる熱を感じた。

「……どうして目覚まし係だったマーリンさんまでベッドに入ってきてるんですかね」
「まあまあ細かい事は置いておいて。自分で言うのもおかしな話だけどこうやって、と」
言うが早いか私の腕を引いてすっぽり抱き込んでしまった。
マーリンさんの体温は勿論全身を包み込む心地よい香りに眠気は更に強くなっていく。

「まーりんさん」
「何かなマイロード」
「次は、ちゃんと起こしてくらさいね」
マーリンの答えを聞く前に梓はそのまま眠りについてしまった。
すうすうと規則正しい寝息を立てている彼女の目の下の薄いクマをなぞった花の魔術師はそこに口付けを落とすと頭を撫でて更に体を密着させてさせるのだった。

極夜