雨降って傘忘れる

「君がしているあれは」
「ただの自己満足に過ぎない?」
乾いた咳をしながら言葉を遮れど彼は表情ひとつ変えなかった。寧ろ自覚があるなら早いとすら言っているように見える。

「例え君から自己満足と思われようと私は誰かが困っているならこれからも手を差しのべるよ。行動せずに後悔をするより」
「…行動して後悔、か」
悲をほんの少し滲ませながら彼がこちらを見る。先日の一件で熱を出しかれこれ2日は臥せている私の姿はさぞ滑稽、阿呆に映っただろう。

「今回の事に君は…梓は納得しているのか」
「あのクラスメイトは風邪をひかずに済んだだろうし、たかが風邪でしょ?」
直ぐ良くなるよ。そう漏らすと途端に彼の悲の色がぐんと増し更にそこへ僅かばかりの怒も追加された。
震える肩は怒りからか、それとも或いは……。

「その優しすぎる性格がいつか君を自滅に導かないか俺はいつも怖くて仕方がない」
いつかの俺のように…。小さく吐き出された言葉に聞こえないふりをして鉛を背負い込んだように重だるい体を起こし今にも泣き出しそうな、もしかしたらもう涙を滲ませているかもしれない大きな体を両腕で包み込んだ。
一瞬大きく肩を揺らしたが彼は何一つ抵抗しなかった。

「本当にごめんね。だけど私は…」
床を映していた彼の顔が勢いよく上がり直ぐに荒々しく私の唇を奪った。
そこから先は言わせない聞きたくないと駄々をこねる幼児のように。

「……タオル変えてこよう。梓は大人しく寝ているんだぞ」
唇を離した彼は視線ひとつ合わせる事なく寝室を後にした。
外から聞こえる雨声を彼は聞いてしまっただろうか。布団に身を投げ目を閉じて一番に浮かんだのは去り際の痛々しいその貌だった。

極夜