「賢王様」

脳裏を過ぎるのはあの日、あの瞬間私に覆いかぶさるようにして身を盾にしたキャスタークラスのギルガメッシュの姿。
今ここに居る彼はそれを覚えていないにしても私の心のどこかにはあの日の事が燻り続けているのだ。
あの時、あの場所に私が居なければ彼はああならずに済んだのではないかと。

「我を選んでいながら何故斯様なまでに暗い顔をしている」
「王様……ごめんなさい、何でもないです」
「"あの世界"で背中を預け戦った者同士、そうよそよそしくする必要もあるまい」
「お、うさま…っ!」
崩れ落ちそうになった私の体を王様の体が支えた。涙で滲む視界で周囲を見渡すといつの間にかあの2人の姿はなくなっていた。

「我はあの時の判断が間違いであったなど言うつもりは微塵もないぞ。結果として梓は再び我をこの地に召喚し共に人理修復を終えた。それで良いではないか」
「結果としてはそうですけど…!」
多量の血を滲ませ笑う王の痛ましく凄惨な姿を忘れた日はない。
彼の千里眼があったからこそ私は今ここで呼吸をしている。それに関しては感謝してもしきれない。

「少しばかり貴様の時間を貸せ」
「は━━?」
瞼の裏側にまで刺さるような鮮烈な光が全身を包み込む。
目を開いた先にはいつか見た栄えあるウルクの都市。

「梓の花嫁衣裳を選び来た。行くぞ」
「は、はい!!」
(賢王が選んだ花嫁衣裳は大層可憐で梓によく似合った物であった)

極夜