「うん。私もダヴィンチさんからそう聞いただけで詳細は分からないんだけど……」
花の魔術師との別れを名残惜しそうに、歯切れの悪い言葉を連ねる梓にマーリンはなんて事のないように言葉を返した。
「私は名だたる英霊達と肩を並べられる立場にはない……あくまで梓に召喚されたフリをしている英霊もどきでしかない。だからその強制退去には該当しないと私は思うんだ」
「は……?」
「それにこの度派遣される査問団がどんな人間で君にどのような狼藉を働くか今の段階では分からないだろう?彼、いや彼女もきっと"私"という存在をあちらに報告していないだろう。使える駒は一人でも多い方がいい。不測の事態に私の幻術が役立つかもしれないしね」
数回瞬きをした後、梓はマーリンの法衣のようなゆったりとした服に飛び付いた。
彼との別れを何より惜しみ、悲しんでいたのは他でもない梓だ。
バビロニアで深い縁を結び、今日まで花の魔術師として彼女を導くグランドキャスターとして傍に居てくれた彼が明日にはもう居ないかもしれない。
そんな考えを浮かべる度に背中に悪寒と一抹の寂しさを覚えていたのは事実だ。
「ありがとうマーリン」
「礼には及ばないよマイロード。それでももし僕にも強制退去が命じられた日には、そうだな……
後半の言葉の真意を探ろうと梓の翡翠の瞳がアメジスト色に輝くマーリンの瞳を見詰める。
花の魔術師は彼女の問いかけに答えることもなく、ただ目を細め微笑みながら梓の背に回していた腕の力を強めたのだった。